「AIを使えない、使おうとしない職員の業務が、AIを使える職員に回されて仕事 が増える」。
デジタル庁 が10月30日に公表した、政府職員の生成AI の利用調査で、自由に書く欄に寄せられた声です。ただ、選択式の答えを見ると、源内を週1回以上使う人のうち、仕事の時間が1時間以上増えた人は0.7%しかいません。偏っていたのは、AIで浮いた時間のほうでした。
AIが得意な人ほど忙しくなる。職場でAIを使う人なら、思い当たる節があるかもしれません。調査を読み込むと、その感覚のどこまでが数字に表れ、どこからが表れにくいのかが見えてきます。
対象はデジタル庁が政府職員に用意した生成AI「源内」です。8月21日から9月18日にかけて、府省庁などの職員6,439人が答えました。源内にまだ登録していない人も入っています。
「過半数が短縮」は使う人の中の話
デジタル庁の発表では、源内を使う人の54.4%が、仕事の時間が週1時間以上短くなったと感じていました。デジタル庁は、1人あたりの短縮を週約1.83時間と見積もっています。
ところが、時間を聞いた相手は回答者の全員ではありません。週1回以上使う3,078人だけです。答えた6,439人の全体で見ると、週1時間以上減ったのは1,677人で、約26%。4人に1人ほどになります。
「過半数」と聞いたときの印象より、だいぶ少なく見えます。
政府職員6,439人の生成AI調査を組み直した図。短縮は回答者の約4人に1人で、時間の4割近くは259人から 作成: 編集部 / 出典: 西のITメディア編集部
使う回数による差も大きく出ました。週1時間以上短くなったと感じた人は、ほぼ毎日使う人で70%、週1〜2回の人では45%です。一方で、回答者の31.2%は源内をほとんど、あるいはまったく使っておらず、21.0%は登録もしていません。
時間の偏りも見ておきます。デジタル庁と同じ置き方で、減った時間を足し合わせました1 。
減った時間(週)
人数
時間の合計
10時間以上
99人
990時間
5〜10時間
160人
1,200時間
3〜5時間
337人
1,348時間
1〜3時間
1,081人
2,162時間
1時間以上増えた
23人
−50時間
減った分の合計は週5,700時間です。このうち2,190時間、約38%は、週5時間以上減った259人の分です。259人は回答者の4.0%にすぎません。
増えた分を引いた5,650時間を3,078人で割ると、週約1.83時間。デジタル庁の推計と同じ値になります。平均の1.83時間には、一部の人の大きな短縮がかなり効いているのです。
会社でAIの効果を報告するときの分母の示し方は、情シスの相棒の10月31日の記事 が取り上げました。ここでは、この偏りで働く人の何が変わるのかを追います。
浮いた時間は、別の仕事で埋まる
仕事が増えたと答えた人はわずかなのに、なぜ「仕事が集中する」という声が出るのでしょうか。書き込まれた声を読むと、理由は一つではありません。
まず、浮いた時間がそのまま別の仕事に回る例です。「同じ時間内により多くの業務をこなすことができるようになった」という声があります。外注していたガイドライン作りを内製した結果、「自身の業務量が増えており」と書いた人もいました。部下を持つ職員からは、AIで下書きを作り、部下の作業を減らして「自身の対応で完結できるようになりました」という声が寄せられました。
どれも前向きな話です。でも、仕事がAIを使える本人に寄っていく形は、冒頭の声と変わりません。
次に、確認とプロンプト作りの手間です。資料では、業務時間が増えた例が「プロンプト作成の手間」と「確認の手間」に分けて並んでいます。冒頭の声も、この「確認の手間」の欄に並んでいました。
デジタル庁の資料が挙げた、業務時間が増えた具体例。確認の手間の欄に、仕事が回される声がある 出典: 出典:「ガバメントAI 源内 利用状況アンケート調査結果 概要」26ページ(デジタル庁) (公共データ利用規約(第1.0版)(PDL1.0)に準拠して利用。ページの上下の余白を切り抜いて作成(2026年11月1日確認))
手間は数字にも表れました。週1回以上使う3,078人のうち、30.8%が「回答の精度・信頼性が低い場面があった」と答え、20.4%が「AIの出力をそのまま使えず、修正・加工に手間がかかった」と答えました。部下が出したAIの回答に誤りがあり、「かえってその確認に手間取った」という上司の声もあります。
AIが生み出す膨大な出力に職員が追われ、かえって負担が増えるようでは本末転倒です。
出典: デジタル庁「ガバメントAI 源内 利用状況アンケート調査(第1回)の結果を公表しました」
デジタル庁はこう書き、「AIに振り回されない働き方 の確保」を、今後の取り組みの3本目の柱に据えました。AIの答えの根拠をたどりやすくし、登録していない人やあまり使わない人には、基本の使い方を教える研修を開く方針です。
大阪・関西では、効果の物差しがそろわない
関西 の府や市は、職員が生成AIを試す段階をもう過ぎています。京都府、大阪市、神戸市は、どこも役所全体で使える環境を整えました。違うのは、効果の測り方です。
京都府は2026年3月10日の府議会の委員会に出した資料で、1月時点の利用状況を示しました。職員の利用率は約60%で、週3日以上使う職員は33%。毎日使う職員は、入れて1か月後の8%から、1年後には16%に増えました。減った仕事の時間は、職員1人あたり年に約160時間としています。
大阪市は時間ではなく、実感で測っています。使っている職員のうち「業務効率化に繋がっていると思う」と答えた割合を指標にし、2025年度末の見込みは89%でした。目標の70%を大きく上回ります。府と市の戦略では、使っている人は10,000人以上。市の職員の約半数です。
神戸市は2024年2月から、全職員がMicrosoft Copilotを使える環境にしました。2023年に133人で試した報告書では、英語の文案1件が1時間から10分になった、というように仕事ごとの例で効果を示しました。
職員向け生成AIの効果の測り方と、使っていない職員や確認の手間への手当てを、国と京都府、大阪市、神戸市で比較 作成: 編集部 / 出典: 西のITメディア編集部
国の週約1.83時間、京都府の年約160時間、大阪市の89%。並べたくなりますが、だれを分母にして何を聞いたかが違うので、大小は比べられません。京都府の160時間をどう計算したかと、神戸市の全職員でどれだけ減ったかは、公開された資料では見つかりませんでした。
それでも、つまずく所は国と同じです。京都府は生成AIを使ったことがない職員や、十分に使いこなせていない職員がいることを課題に挙げ、全職員向けの研修を続ける考えです。神戸市が2026年4月に始めた庁内の基盤「KOBE AI PORT」は、よく使う指示文をひな形で用意し、AIが参照した資料を画面に出すつくりです。市のニュースレターは、生成AIが広がらない理由に「プロンプトの壁」を挙げ、AIをあまり使ったことのない職員ほど切実だと書いています。
源内でAIエージェントが始まった経緯は、政府職員のAI「源内」でAIエージェント開始 個人情報の扱いに基準 で書きました。大阪府と大阪市の取り組みの全体は、大阪府と大阪市の生成AIはどこまで進んだ? 暮らしと店に関わる取り組み が詳しいです。
得意な人、苦手な人、まとめる人への影響
ここからは、調査の声と数字をもとにした編集部の見立てです。生成AIを入れた会社や店でも、同じことは起きやすいでしょう。
AIが得意な人ほど、浮いた時間がだれのものか見えにくくなります。週1時間浮いても、その分を頼まれごとで埋めれば、本人の忙しさは変わりません。浮いた時間で何をしたかを週に一度メモしておくと、上司と分担を話すときの材料になります。確認や指示文づくりにかかった時間も、同じメモに入れておきたいところです。
苦手な人について言えば、源内を使っていない人がみな「使えない人」とは限りません。使っていない理由でいちばん多いのは「使い方がわからない」の1,166人ですが、「源内以外の他のAIサービスを常時利用している」も994人いました。困っているなら、自分で覚えるより、職場で使える指示文の例を先にもらうほうが早いはずです。神戸市がひな形を用意したのも、この壁を下げるためでした。
チームをまとめる人には、分担の見直しが残ります。調査には、上司が仕事の割り振りを調整し、「業務の平準化」を進める必要がある、という職員の声もありました。得意な人に仕事を寄せるのは近道に見えます。ただ、確認の手間まで1人に集まれば、その人が詰まってしまいます。
デジタル庁は2027年1月ごろに2回目の調査をする予定です。10月20日に始まったAIエージェントの環境のあとで、「ほぼ変わらない」の34.6%がどこまで動くのか。仕事が増えたと答える人が0.7%から増えるのかどうかも、見どころになりそうです。
金曜の夕方、今週AIで浮いた時間がどこへ消えたか、手帳をめくってみるとええかもしれへんな。