デジタル庁は2026年10月20日、政府職員向けの生成AI基盤「ガバメントAI 源内(げんない)」で、AIエージェントを使える環境の提供を始めました。あわせて、職員がAIエージェントを使うときに守る決まり「源内基準」を公表しています。国民が使う窓口が今日から変わる発表ではありませんが、役所の中で資料を調べたり、文案を作ったりする仕事の進め方は変わっていきます。デジタル庁の発表と資料から、何が始まり、どんな決まりができたのか、暮らしと仕事への影響を整理します(内容は2026年10月21日時点)。
何が始まった? 政府職員約18万人が対象
源内は、デジタル庁が2025年度に自前で開発した、政府職員向けの生成AIの利用環境です。これまでは、文書の作成・要約・翻訳などのために用意されたAIアプリとチャットを中心に使われてきました。
今回加わったのは、AIエージェント(目標に向けて、自分で手順を組み立てて作業を進めるAI)を使える環境です。対象は約18万人の政府職員で、次の3つからなります。
- エージェントチャット: いつものチャットの発展形です。一度の指示でいくつもの作業をまとめて進め、結果をファイルや文書で出せます。10月20日から各府省庁に順に入れていきます。
- 源内工房: 職員が自分の業務に合わせたWebアプリを試しに作ったり、複数のウェブサイトを読み比べて調べたりできる環境です。2026年12月ごろまでの導入を目指しています。
- 源内ライブラリ: 職員が作った「スキル」を、府省庁を越えて共有する仕組みです。スキルとは、これまで職員ごとにたまっていた業務の手順、判断の基準、確かめ方などを、AIエージェントが実行できる形にまとめたものです。
源内に加わるAIエージェントの3つの環境(デジタル庁の資料)出典: デジタル庁(引用)
デジタル庁は、高度なAIエージェントの環境を、専門の職員に限らず一般の職員も毎日の仕事で使える共通の基盤として約18万人の規模で入れるのは、同庁の調査で「世界初の試み」だとしています。
決まり「源内基準」 人の確認と人物の情報の扱い
AIエージェントは、ふつうのAIアプリより扱える処理の幅が広く、間違えたときの影響も大きくなります。そこでデジタル庁は、AIの安全性を評価する国の機関、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の協力を得て「源内基準」を作りました。使う職員(利用者)、各府省庁のAI統括責任者(CAIO)などの管理者、デジタル庁の開発者のそれぞれに、守ることを決めています。
職員が守る基本の決まりから、暮らしに関わるものを抜き出すと、次のとおりです。
- AIの処理をうのみにせず、仕事の適切な段階で確認・判断・承認・修正・停止をする。職員が確かめていないAIの出力を、行政の資料や公文書に直接書き写さない。
- AIの出力を事実として扱わず、大事な情報は法令や公表資料などの元の資料で確かめる。計算は別の方法で検算する。
- 外から読み込んだ情報や添付ファイルに仕込まれた指示(プロンプトインジェクション)に気をつけ、意図しない動きに気づいたら止める。
- リスクが高いかもしれない使い方は、判定シートで見きわめ、CAIOへの報告などの手続きをとる。
- 組織が認めていないAI(シャドーAI)を仕事で使わない。
- AIで個人を検索するのは担当の事務に必要なときだけにし、ほかの目的に回さない。本人が表明していない信条などを推し量ったり、将来の行動を予測したりしない。いくつもの情報源をまとめて個人ごとにためこまない。
源内基準の、職員が守る基本の決まり(抜粋その2)出典: デジタル庁(引用)
使える人も絞っています。エージェントチャットは、使う前に注意事項が表示され、同意した職員だけが使えます。源内工房は、AIの知識を確かめるチェックなどで一定の水準を満たし、管理者が確認した職員に限ります。ファイルを書き換える操作の前には、対象と影響の範囲を確かめ、原則としてバックアップをとることも求めています。
暮らしと仕事への影響 手続きの早さと個人情報
手続きの判断は職員が行う
源内基準は、AIを判断する主体ではなく、職員の調査・審査・分析・文案づくりを助ける道具と位置づけています。最終的な判断は職員が行い、AIエージェントを使った仕事の責任は行政機関にあるとしています。許認可、給付、不利益処分、採用など、国民の権利や利益に関わる仕事では、各府省庁が職員のスキルの作成や利用を統制する必要があるとも書いています。
リスクの高い仕事については、ふつうのアクセスの記録とは別に、AIを使った記録を残す機能を検討するとしています。入力したデータ、参照した資料、AIの回答、使ったモデル、処理した時刻などを自動で残し、あとから検証や監査ができるようにする考えです。
手続きが早くなるかどうかについて、デジタル庁は業務の省力化や質の向上を目指すとしていますが、処理の期間がどれだけ縮むかの数字は示していません。政府の重点計画では、2026年度は全府省庁での実証を進め、費用に見合う効果などを確かめたうえで、2027年度以降に本格的な利用を始めるかを検討するとしています。
入力した情報の扱い
源内基準には、職員が入力した情報の扱いも書かれています。
- 処理は原則として、ガバメントクラウドを構成する国内のデータセンターで行い、データが国外に移らない形にする。国内で提供されていない高度なモデルを使う必要があるときなどに限り、海外のデータセンターで処理する道も残す。その場合は、処理のあとに海外でデータが保存されないことを契約で確保する。
- 入力したデータとAIの出力を、基盤モデルの学習などに使わないことを、提供する事業者との契約で確保する。
- 秘密文書に当たる「機密性3情報」や特定秘密は、源内に入れてはいけない。デジタル庁の職員が扱えるのは「機密性2情報」まで。ほかの府省庁は、それぞれのルールで範囲を決める。
- デジタル庁は、運用や改善、セキュリティ対策に必要な範囲で、入力と出力を含む記録を取ることがある。その場合も、目的の外には使わない。
会社でAIエージェントを使う人には
デジタル庁は源内基準を、AIエージェントを入れようとしている自治体や企業にとっての「モデルケース」として参考にしてほしいとしています。人がどこで確かめるか、入れてよい情報はどこまでか、ファイルを触る前に何をするかといった決め方は、会社の中のルールづくりにもそのまま当てはめやすい内容です。国のAIのルール全体については、国のAIのルールは暮らしと仕事にどう関わる? AI法と基本計画の要点にまとめています。
自治体への広がり オープンソース版は2027年2月ごろ
源内の一部は、2026年4月にオープンソースのソフト(OSS)として、商用でも使えるライセンスで無償公開されています。今回のエージェントチャットと源内工房も「源内OSS Ver.2.0」として、2027年2月ごろをめどに公開する予定です。自治体や企業が使い、手を加え、配ることができます。
ただし源内基準は、OSSを使うだけで安全なAIの環境ができるわけではないとくぎを刺しています。導入する組織が、自分の責任で、使える人の管理、記録の管理、個人情報の扱い、職員の教育などを整える必要があります。自治体が業者に発注するときも、OSSをそのまま指定するのではなく、参考の一つとして使い、目的や必要な機能、費用に見合う効果をはっきりさせるよう求めています。将来は、国と自治体の間でデータや仕事の流れをつなぐことも視野に入れています。
自治体向けには別の動きもあります。デジタル庁は、自治体から国への問い合わせや照会の事務をAIで減らす実証に参加する自治体を、10月26日から募る予定です。くわしくはデジタル庁、共通AIの実証自治体を募集へ 政府への照会事務の省力化を検証にまとめています。
大阪・関西では
関西の自治体が源内のOSSを使うという公式の発表は、10月21日の時点で確認できませんでした。一方で、府や市が独自に進める生成AIの取り組みはあります。
- 大阪府は、企業などと組む「大阪府行政AIエージェントコンソーシアム」を2025年12月に立ち上げました。参加は42団体です(2026年9月4日時点)。2026年度は、府庁の中と府内の市町村に対象の手続きを広く照会し、実証の範囲を広げるとしています。
- 大阪市は2026年3月に「大阪市AI活用基本方針」を定めました。誤った判断や情報漏えいなどのリスクに備えながら、市がAIを使うときの基本の姿勢と原則を、市民などに示したものです。
府と市の取り組みは、大阪府と大阪市の生成AIはどこまで進んだ? 暮らしと店に関わる取り組みでくわしく整理しています。
今日からできること
- 役所の通知や回答で根拠が気になったら、担当の窓口に尋ねる: 源内基準は、AIの出力をそのまま使わず、職員が根拠を確かめて判断する決まりです。判断したのは職員なので、根拠を尋ねる先はこれまでと変わりません。
- 会社でAIエージェントを使うなら、源内基準の利用者の決まりをたたき台にする: 人が確かめる場面、入力してよい情報、ファイル操作の前のバックアップの3点から決めると、社内ルールの形になりやすくなります。資料はデジタル庁のページで誰でも読めます。
- 自治体で働く人は、2つの予定を押さえておく: OSS Ver.2.0の公開は2027年2月ごろ、照会事務の実証の募集は10月26日からの予定です。
役所のAIも、最後に決めるのは人や。気になることは窓口で聞いてみてな。