「明日この内容について聞かれるかもしれないから、関連情報も調べておこう」
休日に「返信不要です」と書かれた連絡を受け取った職員の、心の声です。神戸市が10月30日に公表した時間外の連絡ルールの手引きに、この場面が出てきます。判定は、緊急の連絡には当たらない、でした。
「参考まで」「返信不要」と添えても、受け手は確認や下調べを求められたように感じる場合があるからです。
神戸市の手引きの事例。「返信不要」と添えた共有も緊急には当たらないと判定する出典: 神戸市オフタイム・ポリシー<ハンドブック編>(引用)
ルールの名前は「神戸市オフタイム・ポリシー」で、11月1日に運用が始まりました。勤務時間外の業務連絡のガイドラインは、市の調べでは政令市で初めてです。
基準は受け手の都合より、送り手の勤務
線引きの軸は、意外なところに置かれました。受け手が休みかどうかではなく、送る側が今、働いているかどうかです。
市の資料によると、2019年度の有識者会議の報告書が、「受け手が対応しないことで不利益を受けない」よりも、「送り手が緊急の場合を除いては連絡しない」という意識改革のほうが日本ではなじみやすいと示しました。つまり、断る権利を受け手に持たせるより、送る手を止める考え方です。
LINEやSNSなどの私用ツールは、どの場合も緊急時だけ。公用のメールやチャットは、次のように分かれます。
| 受け手 |
送り手の状況 |
公用のメールやチャット |
| 職員 |
勤務している |
連絡できる |
| 職員 |
勤務していない |
緊急時のみ |
| 職員以外 |
平日8時45分〜17時30分 |
連絡できる |
| 職員以外 |
それ以外の時間 |
緊急時か、相手が営業中のときのみ |
残業中の職員が夜に公用メールを送ること自体は、禁じられていません。ただし平日22時から翌7時までと休日は、受け手の負担に特に配慮するとしました。
「職員以外」は事業者や関係団体、市民、議員を指します。時間を区切ったのは、相手の業務用の端末から私用の端末へ通知が転送されている場合があるためです。取引先の夜のスマホまで気にかけた決まりは、民間の職場でも参考になるでしょう。
もっとも、全職員が対象ではありません。消防局、水道局、交通局、教育委員会事務局と学校園の職員、外郭団体などへの出向者や派遣者は外れます。
緊急かどうかは3つの質問で決まる
市が示した判断の目安は、順に答える3つの質問です。連絡しないと業務に支障が出るか。次の勤務開始までに確認や対応が要るか。勤務中のほかの職員では対応できないか。
緊急かどうかを順に判断する神戸市の目安。どの質問にも「判断に迷う」の矢印がある出典: 神戸市オフタイム・ポリシー(引用)
手引きの14の事例を仕分けると、線の位置が見えてきます。
緊急に当たる6事例
- 防災指令の前後の配備連絡
- 個人情報を含む書類などの紛失や誤送付
- 翌日のイベントの中止や変更の周知
- 翌朝の直行や集合時刻の変更
- 急な休みの連絡
- 急な休みに伴う当日の用件の引き継ぎ
条件しだい4事例
- 施設や工事現場の事故
- 業務システムやオンライン申請の障害
- 休み中の上司や担当者への確認
- 育児休業などで長く不在の職員への確認
当たらない4事例
- 翌勤務日に対応すれば足りる業務指示
- 業務に関するニュースの共有
- 翌日の確認で足りる上司への報告
- 休日のイベントの状況を、出ていない職員を含むグループへ共有
目を引くのは「急な休みの連絡」が緊急に入っている点です。発熱した朝にLINEで上司へ連絡しても、ルールには反しません。逆に個人情報の紛失は緊急でも、詳しい中身は私用ツールで送らないよう注意を促しました。
市民に関わるのはオンライン申請の障害でしょう。利用者が申請できず、翌朝の対応に支障が出るなら緊急として動きます。軽い不具合は、翌勤務時間に回る扱いです。
「迷ったら連絡してよい」をどう読むか
判断の目安をよく見ると、どの質問にも「はい/判断に迷う」の矢印が付いています。迷ったら連絡してよい、という作りです。
ここは安全弁であり、抜け道にもなりそうです。災害の場面で「緊急か迷って連絡しなかった」となれば、困るのは市民です。でも忙しい職場ほど、何でも「迷う」に流れかねません。
市もそこは承知のようで、緊急の連絡のあとに事後確認を置きました。準備不足や確認漏れ、期限管理の不備が原因なら、理由を確かめて再発防止策を考えます。ルールが生きるかどうかは、この事後確認が実際に回るかどうかにかかっているとみています。
「約6割」は回答者の中の数字
市の説明では、時間外に個人の端末で連絡を受けるか送るかしている職員は約6割です。ただ、対象1万1,830人のうち答えたのは2,620人で、回答率は22.1%でした。関心の高い人ほど答えやすい調査なので、職員全体の6割とまでは読まないほうがよさそうです。
内訳を足し直すと、別のことも見えてきます。受ける人は52.5%で、送る人の33.0%を上回りました。1人の送信がグループの何人にも届けば、こうした差は生まれます。
受けることについては、「受けたくない」が18.7%、「できれば受けたくないが、業務上やむを得ない」が48.5%でした。あわせて67.2%で、「気にしていない」の19.1%を大きく上回ります。
では、民間の職場はどうでしょうか。厚生労働省が審議会に出した調査では、時間外の社内連絡について「特段ルール等は整備しておらず、現場に任せている」と答えた企業が36.8%で最多でした。「災害時等の緊急連絡を除いて連絡しない」は29.4%にとどまります。
関西の職場に広がる影響
日本の法令に、勤務時間外の業務上の指示や連絡を規制する決まりはありません。厚労省の研究会は2025年1月の報告書で、労働時間でない時間に使用者が労働者の生活へ介入する権利は本来ないと指摘しました。そのうえで、どこまでの連絡を認めるかは社内ルールとして労使で検討する必要があるとしました。
この論点は今も動いています。2026年10月14日の審議会の分科会には、各企業が業務上の連絡のルールを明確にすることをどう考えるか、という問いが示されました。
神戸市は、経済界を介して市内の企業にも取り組みを知らせていく予定です。だからルールの無い会社は、14の事例をそのまま話し合いのたたき台にできます。
金曜の夜に送らないためにできること
手引きの工夫は、市役所でなくても使えます。
- 思いついた用件は、自分宛てのメールに残す。
- メールの予約送信で、週明けの始業後に届くようにする。Outlookは、パソコンが起動していないと予約の時刻に送られない点に注意します。
- グループチャットは、対応が要る人だけに絞る。
- 休みの前に、資料の場所と進み具合を引き継いでおく。不在の人に聞く連絡そのものが減ります。
チャットの通知の設定は、ベンチャー・スピリット!の社内チャットのマナーの記事でご覧いただけます。
それでも時間外に送るしかないときだけ、返信は勤務時間内でよいと本文に添えます。「返信不要」は気づかいの言葉というより、最後の手段なのです。
金曜の夜に思いついた話は、月曜の朝まで寝かしといたらええねん。