「AIで好調ですね」。面接や取引先との雑談で、そう言いたくなる決算が関西で続きました。10月29日にキーエンス、30日に村田製作所とパナソニック ホールディングスが4〜9月期の決算を発表し、3社そろって営業利益が大きく増えています。
では、本当にAIのおかげなのでしょうか。資料を開くと、答えは3社で分かれます。キーエンスの決算短信と説明会資料には、「AI」の語が一度も出てきません。
売上と利益の伸びは、3社でずれている
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キーエンス |
村田製作所 |
パナソニックHD |
| 本社 |
大阪市東淀川区 |
京都府長岡京市 |
大阪府門真市 |
| 発表日 |
10月29日 |
10月30日 |
10月30日 |
| 対象期間 |
3月21日〜9月20日 |
4月1日〜9月30日 |
4月1日〜9月30日 |
| 売上 |
7,354億円(+34.9%) |
10,908億円(+20.8%) |
40,925億円(+7.1%) |
| 営業利益 |
4,083億円(+50.0%) |
2,459億円(+48.9%) |
3,632億円(+120.1%) |
| 営業利益の増加額 |
+1,361億円 |
+808億円 |
+1,982億円 |
| 営業利益率(前年同期) |
55.5%(49.9%) |
22.5%(18.3%) |
8.9%(4.3%) |
| 通期の営業利益見通し |
短信に記載なし |
4,300億円→5,200億円 |
5,900億円→7,100億円 |
連結の数字です。キーエンスと村田の億円は説明会資料の値、パナソニックは短信の百万円の値を四捨五入しました。キーエンスの営業利益率は短信から計算した値です。
まず目が行くのはパナソニックでしょう。売上は7.1%増なのに、営業利益は2.2倍。村田とキーエンスも、利益の伸びが売上の伸びを大きく上回りました。
営業利益率は55.5%から8.9%まで開いています。ただ、売るものも事業の数も違うので、高低で会社の優劣は決まりません。会計基準もキーエンスは日本基準、ほか2社はIFRSで、同じ「営業利益」でも中身は少し違います。
伸びた場所も、3社で重なりません。
キーエンス、村田製作所、パナソニックの4〜9月期決算と、伸びた業種・用途・事業の比較作成: 編集部 / 出典: 作成: 西のITメディア編集部 / 出典: キーエンス・村田製作所・パナソニック ホールディングスの決算短信と説明会資料
増えた営業利益を項目ごとに分けると、違いはさらにはっきりします。村田は会社が公表した分け方で、キーエンスとパナソニックは損益計算書の差額で分けました。
増えた営業利益の内訳を3社で比較。円安の分は増益のうちキーエンス約28%、村田約37%作成: 編集部 / 出典: 作成: 西のITメディア編集部 / 出典: 3社の決算短信、村田製作所とキーエンスの決算説明会資料
| 会社 |
項目 |
金額(億円) |
| キーエンス |
前年同期の営業利益 |
2,722 |
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売上総利益の増加 |
+1,791 |
|
販管費の増加 |
−430 |
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今期の営業利益 |
4,083 |
| 村田製作所 |
前年同期の営業利益 |
1,651 |
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合理化効果(推計値) |
+170 |
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操業度益(推計値) |
+1,080 |
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売価値下げ(推計値) |
−280 |
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為替変動(推計値) |
+300 |
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減価償却費の増加 |
−72 |
|
準変動費・固定費の増加 |
−410 |
|
その他 |
+20 |
|
今期の営業利益 |
2,459 |
| パナソニックHD |
前年同期の営業利益 |
1,650 |
|
売上総利益の増加 |
+1,508 |
|
販管費の減少 |
+669 |
|
持分法による投資損益の減少 |
−8 |
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その他の損益の悪化 |
−186 |
|
今期の営業利益 |
3,632 |
村田はデータセンター向けが2倍、高周波部品は減収
村田製作所の決算は、AI需要の話として読んで外れません。データセンター関連の売上は817億円から1,649億円へ、101.8%増えました。増収分1,880億円のうち832億円、4割あまりをこの1項目で稼いだ計算です。
| 用途 |
前年同期(億円) |
今期(億円) |
前年同期比 |
| 通信 |
3,285 |
3,468 |
+5.6% |
| モビリティ |
2,345 |
2,688 |
+14.6% |
| コンピュータ |
1,459 |
2,351 |
+61.2% |
| うちデータセンター関連 |
817 |
1,649 |
+101.8% |
| 産業・その他 |
1,204 |
1,684 |
+39.8% |
| 家電 |
734 |
716 |
−2.4% |
| 合計 |
9,028 |
10,908 |
+20.8% |
主役は積層セラミックコンデンサ(MLCC)です。電子機器の回路に数多く載る小さな部品で、短信によるとデータセンターを中心に幅広い用途で増えました。反対に、スマートフォン向けの樹脂多層基板や高周波モジュールは減り、高周波・通信の事業は2.1%減の1,985億円でした。
利益を押し上げた最大の項目は、1,080億円の操業度益。生産が増えて工場の稼働が上がり、製品1個あたりの固定費が下がった分を指します。一方で値下げは280億円、準変動費と固定費の増加は410億円の減益要因でした。
円安の影響も見逃せません。対ドルの平均レートは146.04円から159.37円に動きました。村田の資料では為替が300億円の増益要因で、これを除くと営業利益の伸びは48.9%から30.7%に、売上収益の伸びは20.8%から14.2%に下がります。下期の前提は1ドル155円で、1円動くと年間の営業利益が約45億円変わる計算です。
キーエンスの資料にAIの語はない
キーエンスの短信が伸びの理由に挙げるのは、工場の設備投資です。アジアについて「半導体・電気精密業界を中心に成長が継続しました」と書き、国内の設備投資も「回復基調」という見方です。説明会資料の業種別の表でも、半導体・液晶と電機・精密の伸びが目立ちます。
| 業種 |
国内 |
海外 |
売上の構成比(国内・海外) |
| 半導体・液晶 |
+45% |
+65% |
15%・15% |
| 電機・精密 |
+45% |
+35% |
15%・20% |
| 食品・薬品 |
+20% |
+25% |
10%・10% |
| 金属・工作機械 |
+15% |
+25% |
10%・10% |
| その他 |
+10% |
+25% |
30%・25% |
| 自動車・輸送 |
+10% |
+10% |
20%・20% |
伸びは前年同期比で現地通貨ベース、数字は資料のとおり5%刻みです。
半導体の工場が投資を増やした背景にAI需要があると考えるのは自然でしょう。ただ、資料はそこまで書いていないので、推測にとどまります。自動車・輸送は構成比20%と大きいものの、伸びは国内外とも10%でした。地域別では、現地通貨ベースでアジアが39.5%増、北中南米が21.8%増、国内が21.4%増、欧州・その他が12.5%増です。
円安の影響は、説明会資料に数字があります。米ドルの平均レートは146円から160円に動き、影響額は売上で約519億円、営業利益で約384億円。増益1,361億円の約28%にあたります。単純に差し引くと、売上は約25%増、営業利益は約36%増で、円安の分を除いても高い伸びは残ります。
設備投資は四半期の合計で上期に約100億円と、村田の865億円の1割ほどです。10月には、部品のCADデータを配信するフランスのTraceParts社を子会社にしました。
パナソニックは構造改革と電池が押し上げた
パナソニックの短信は、増減の理由を説明会資料に任せています。その資料は今回読めなかったので、ここは短信の数字と、会社の説明、報道を合わせて読みます。
損益計算書で目立つのは、売上総利益の1,508億円増に加えて、販管費が669億円減ったことです。販管費が減って利益が増える形は、ほか2社にはありません。
パナソニックは6月に公開したグループ成長戦略のインタビューで、昨年度にグループ全体で「大規模な経営改革」を進めたと説明しています。販管費が減った背景として、まず思い当たるのはこの点です。報道では、PHILE WEBの記事がAIインフラ関連の伸びと昨年度の構造改革の効果を挙げ、デイリースポーツの記事はデータセンターなどで使う電子部品の販売が想定を上回っていると伝えました。
| 事業 |
前年同期(億円) |
今期(億円) |
増減(億円) |
| エナジー |
331 |
965 |
+634 |
| インダストリー |
463 |
869 |
+406 |
| コネクト |
289 |
581 |
+292 |
| エレクトリックワークス |
272 |
573 |
+301 |
| HVAC&CC |
193 |
308 |
+115 |
| スマートライフ |
154 |
73 |
−81 |
| その他 |
229 |
373 |
+144 |
| 消去・調整 |
−280 |
−109 |
+171 |
| 合計 |
1,650 |
3,632 |
+1,982 |
エナジーとインダストリーの2つで、増益の半分あまりを占めます。
気をつけたいのは全社の売上です。7.1%増という数字には、「その他」の外部顧客向け売上が5,752億円から2,559億円に減った分が含まれます。6つの事業の外部顧客向け売上を足すと18.2%増でした。「その他」が減った理由は、短信からは分かりません。
スマートライフは154億円から73億円に減りました。短信の注記によると、全社の「その他の損益」にドラム式洗濯乾燥機のリコール費用190億円が入っています。事業ごとの内訳はないものの、家電を担う事業なので、この費用が響いたとみられます。
関西の工場と勤務地への影響
業績の伸びは、関西の拠点にも届き始めました。パナソニック エナジーはデータセンター向けの電池を2026年4月に大阪の住之江拠点で出荷し始め、住之江と貝塚で車載用ラインの改造を進めています。9月には門真でリチウムイオン電池の研究開発拠点が本格稼働しました。
パナソニック インダストリーも、AIサーバー向けのコンデンサ「SP-Cap」の増産に、京都府の宇治工場とインドネシアのバタムで約170億円を投じます。AI関連の投資は全体で約920億円で、残りは中国の蘇州とタイのアユタヤ、三重県の四日市に向かいます。
ただし、本社が関西でも、増強先が関西とは限りません。村田はMLCCに2026〜2030年の5年間で約1兆円を投じる計画を示しましたが、新しい生産棟の場所は岡山と島根の安来、タイです。安来の時期は未定で、フィリピンでは生産インフラを整えます。説明会資料のこの地図に、関西の拠点は載っていません。
村田製作所が示したMLCCの建物投資の地図。赤字が今後の計画で、関西の拠点は載っていない出典: 村田製作所「2026年度 第2四半期 決算説明会」資料 7ページ(引用)
就活と仕事で見る5か所
短信を全部読む必要はありません。見る場所は次の5か所で足ります。
決算資料で見る5か所を、3社の実際の数字と読み方で整理した表作成: 編集部 / 出典: 作成: 西のITメディア編集部 / 出典: 3社の決算短信と説明会資料、キーエンスとパナソニックの発表
ここからは編集部の見立てです。就活なら、2番と5番がそのまま質問になります。たとえば村田なら「データセンター向けが伸びるなか、スマートフォン向けの部門はどう立て直すのですか」、パナソニックなら「宇治や住之江の増強に、どの職種が関わりますか」。これだけで「好調ですね」の一歩先に進めます。
パナソニック ホールディングスは持株会社なので、志望する事業がどのセグメントにあたるかを先に調べておくと、数字の見え方が変わります。平均年収や社員数は関西の電機・IT 23社の図解、研究開発費は16社の図解で比べられます。
関西の部品会社や装置の会社で働く人なら、村田の受注が参考になります。7〜9月の受注高は7,534億円で売上の5,885億円を上回り、その比率は1.28でした。ただ、村田の資料には「一部用途での前倒し受注の懸念」という言葉もあります。取引先から注文が急に増えたら、需要そのものか先回りの注文かを聞いておくと、増産の判断を誤りにくくなるはずです。
働く側から見ると、村田が10月の見通しに「賞与などの人件費増」を織り込んだ点も気になるところでしょう。とはいえ、どれも上期だけの数字で、会社の良し悪しや先行きを決めるものではありません。株の売買を勧める記事でもありません。
次は11月2日の京セラ
関西の会社の発表はまだ続きます。各社のIRページによると、京セラが11月2日、任天堂とダイキン工業が11月5日、シャープが11月9日です。ニデックは、10月31日時点でIRページの最新の決算短信が、9月30日に開示した2026年3月期のものでした。オムロンとロームの日程は確認できていません。
同じ5か所で読み比べると、データセンターの話がどこまで広がっているかも見えてくるでしょう。数字は10月31日に各社の資料で確認しました。
決算の数字はいかつく見えるけど、為替と伸びた事業の2か所を見るだけでも、説明会で聞くことはだいぶ変わるで。