MetaのAIエージェント「Muse」で、利用者が会話を共有するために作ったページを、リンクを渡されていない人も見つけて読めたと、セキュリティ企業のClarocが2026年10月18日に報告しました。Metaは米国の報道機関の取材に、共有の機能を止めたと答えています。Museは日本では提供されていませんが、AIの会話を「リンクで共有」するしくみは、日本で使われているAIにもあります。何が起きたのかと、共有リンクを使う前に知っておきたいことをまとめます。
何が起きた? 共有ページのアドレスから見つかった
Museは、メールや予定、買い物などを利用者の代わりに進めるAIエージェントです。Metaは9月に米国で提供を始めました。
Museに会話の共有を頼むと、会話をページとして公開し、送るためのリンクを渡します。ページは、リンクを持っている人ならログインなしで開けます。Clarocは、受け取った同僚が開けるようにするための作りだと説明しています。
問題は、共有ページのアドレスの作り方でした。Museは、会話の題名と、推測されにくい識別子を、アドレスの先頭(ホスト名)に入れていました。
Museの共有ページのアドレスの作り(説明用の図・題名と識別子は架空)出典: Claroc(引用)
だれかが共有ページを開くと、ブラウザーはこのホスト名をインターネットの住所の仕組み(DNS)で調べます。この問い合わせを記録して検索できるようにしている「パッシブDNS」のサービスがあり、そこにホスト名がまるごと残ります。推測されにくいはずの識別子も、そのまま記録されます。記録からホスト名を拾えば、共有リンクを組み立て直せたことになります。
Clarocは、Museの提供から約1か月後に、商用のパッシブDNSのサービスで、Museの共有ページの置き場所を調べました。ノイズを取り除くと、共有ページのホスト名が6,800件を超えて残りました。開いたのは数百件だけで、ほとんどがアカウントなしでそのまま開いたといいます。
Museは、検索エンジンに共有ページを集めないよう求める設定(robots.txt)をしていました。Clarocは、この設定は検索エンジンの巡回を止めるもので、ページを開けるかどうかは変わらないと指摘しています。今回の見つけ方は、検索エンジンを使っていません。
見えていた中身
Clarocによると、開いたページの多くは、小さな会社のサイトやイベントの予定など、見られても困らなさそうなものでした。一方で、少数ながら、次のような中身もありました。名前やリンクは伏せています。
- AIの研究所の幹部との、秘密の面談に向けた候補者の準備のメモ(相手の担当者の名前と面談の時刻)
- 全国でマーケティングを手がける会社の、社長向けの売上の資料
- 小さな会社の融資の申込書(申し込む金額つき)
- 銀行の不正利用の通知を書きとめたやることリスト(口座番号の一部、取引の金額と時刻)
- 不動産の投資家の運用の報告(物件の住所2か所、利回りや収入、ローンの金額)
- 職場の1年分の休暇の予定表(何十人もの従業員の休む週)
Clarocは、こうした一覧は詐欺やなりすまし、人をだまして情報を引き出す手口の近道になると指摘しています。一方で、共有ページが悪用された証拠はないとしています。どのくらいの期間見られる状態だったか、ほかの人が先に見つけていたかは分からないとしています。
Clarocは10月8日に、Metaの脆弱性の報告の窓口(バグバウンティ)へ知らせたとしています。
米国のテクノロジーの報道機関Ars Technicaは10月20日、Metaから「報告を確かめ、リンクが見つけられるしくみの変更を考えるあいだ、この機能を止めた」との回答を得たと報じました。10月21日朝の時点で、Metaの公式のニュースのページには、この件の発表は見当たりません。
Clarocは10月20日の追記で、前に開けた共有ページ40件を確かめ直したところ、どれも開かなくなっていたと報告しました。ただし、会話の題名の入ったホスト名は、パッシブDNSの記録に残ったままだとしています。
暮らしと仕事への影響
Metaの日本語の発表は、Museを米国で提供し、日本での提供は現時点で未定としています。10月21日に確かめたところ、日本のApp StoreではMuseのアプリを見つけられませんでした。日本の利用者への直接の影響は小さいとみられます。
ただ、Clarocは、公開のリンクで会話を共有するAIはほかにも多いと書いています。Museで見つけやすくなったのは、題名がアドレスに入っていたためです。一方で「リンクを知っている人ならだれでも見られる」という点は、共有リンクの多くに共通します。
たとえばGoogleは、GeminiアプリのヘルプでGeminiの共有について、次のように説明しています。
- チャットを共有すると、公開リンクが作られる
- 相手にリンクを直接渡していなくても、リンクを知っている人はだれでも読める
- リンクを知っている人は、チャットをほかの人に再共有できる
- 公開リンクを消しても、ほかのサイトに貼ったリンクの投稿は消えない
Geminiアプリのヘルプ。公開リンクの消し方と、リンクを知っている人ができること出典: Google(引用)
仕事でAIを使う人が、会議の準備や売上のまとめをAIで作り、同僚にリンクで渡すことは珍しくありません。Clarocは、共有は社員が会話ごとに頼むもので、AIの導入のときの設定の確認では見落としやすいと指摘しています。
今日からできること
- 共有リンクは公開と考える: 渡した相手だけが見るとは限りません。リンクがほかの人の手に渡れば、その人も読めます。
- 個人情報やお金、会社の数字が入った会話は、リンクで共有しない: 必要な部分だけを書き写し、社内のチャットやメールで渡します。
- 作った共有リンクを見直す: Geminiなら、パソコンでgemini.google.comを開き、[設定とヘルプ]から[公開リンク]を選ぶと、一覧から消せます。ほかのAIも、各社のヘルプで共有したリンクの一覧と消し方を確かめます。
- 会話の題名にも気をつける: Museでは、題名がアドレスに入って記録に残りました。題名に人の名前や金額を入れない習慣をつけます。
- 会社のAIの使い方の決まりに、共有リンクの扱いを入れる: AIに何を入れてよいかと並べて、共有リンクで何を外に出してよいかを決めておきます。
Museがどんなアプリかは、Meta「Muse」にiPad版 何ができる?日本はまだ未定でまとめています。
関西の暮らしと仕事での使いどころ
関西の人や会社への影響は、報告に書かれていません。ここでは、関西で暮らし、働く人の使い方の例として整理します。
たとえば、実家の売却の予算をAIで整理して、離れて住むきょうだいにリンクで送る家族がいるかもしれません。Clarocが見つけたページにも、家の売却の予算がありました。家のお金の話は、リンクではなく、家族のグループのチャットに要点を書いて送るほうが安心です。
大阪や京都の小さな会社で、融資の申込書の下書きをAIで作り、税理士や金融機関の担当者にリンクで見てもらうのも、同じ注意が要ります。下書きはファイルにして、相手と決めた方法で渡します。
米国に拠点のある関西の会社では、現地の社員がMuseを使っていた可能性もあります。止まる前に作った共有ページがなかったかを、現地の担当者に一度確かめてもらうとよいでしょう。
共有リンクを作る前に、だれに見られても困らへんか、ひと呼吸おいて確かめよな。