検索のいちばん上に出てくるAIの答えは、どのページを読んで書かれたものでしょうか。
補助金の条件や電気代の支援を調べて、そのまま閉じてしまう人は少なくないようです。ロイター・ジャーナリズム研究所が日本を含む6か国で聞いた2025年の調査では、直近1週間に検索でAIの答えを見た人が54%いました。そのうちリンクを「いつも」か「よく」押す人は33%で、28%は「ほとんど」か「まったく」押しません。
出どころを数字で調べたのが、日本国際問題研究所が10月20日に公開した研究レポートです。コード・フォー・ジャパンの陣内一樹副代表理事が執筆しました。主題は日中間の情報戦で、内容は執筆者の見解という位置づけです。ただ、結果からは、普段の調べものにも関わる癖が読み取れます。
同じ質問でも、言葉とモデルで答えが変わる
調査は2026年8月13〜15日に実施されました。9つの生成AIモデルに、日中間の外交や安全保障の論点15件を日本語と英語、中国語で10回ずつ尋ね、「はい」か「いいえ」で答えてもらう形です。集まった回答は3,976件、根拠として挙がったURLは26,954件にのぼります。
中国政府の公式見解に沿う答えの割合は、日本語で16.8%、英語で21.6%、中国語で33.8%でした。
この指標は、答えの正誤を示すものではありません。レポートの結論は、同じ問いでも聞く言葉で答えが変わる、というものです。参照先も言葉で偏り、日本語では36.1%が「.jp」、中国語では22.0%が「.cn」で終わるサイトでした。
日本国際問題研究所のレポートにある、モデル別・言語別の「中国寄り」回答率の表出典: 日本国際問題研究所「AI時代の情報戦における日本の脆弱性 ― 生成AIに届かない政府の情報発信」(引用)
モデルごとの差も大きく、日本語の値は0.0%から40.0%まで開きました。中国企業のモデルで高めですが、米国企業のモデルどうしでも幅があります。日本語で聞けば必ず低いわけでもなく、9つのうち2つは英語より日本語のほうが高い値でした。もっとも、信頼区間が重なるので順位の比較はできない、という注記つきの表です。
AIが読めない政府サイトと暮らしへの影響
レポートでもう一つ目を引くのが、AIのボットが政府のサイトにアクセスできるかの測定です。対象は省庁や国会、最高裁判所など52サイトで、測定日は8月21日でした。
| 経路 |
アクセスできなかったサイト |
| 検索エンジンの収集 |
なし(52サイトすべてアクセスできた) |
| 生成AIの事前学習用の収集 |
防衛省、経済産業省、特許庁、中小企業庁、資源エネルギー庁の5つ |
| AIが回答するときの取得 |
上の5つと外務省、e-Gov、政府広報オンラインの計8つ |
人が開く分には、どのサイトも問題なく読めます。
暮らしに近いのは、法令を調べるe-Gov、制度や注意喚起を載せる政府広報オンライン、電気・ガス料金の支援を扱う資源エネルギー庁でしょう。店の補助金なら中小企業庁です。このあたりをAIに尋ねたとき、公式の本文を直接読めないまま、別のサイトや報道をもとに答えている場面があるかもしれません。
ただし、この測定には限りがあります。回答時の取得はAnthropicの取得基盤という1社の経路で試したもので、他社のAIでも同じとは限りません。1か所のネットワークからの測定で、設定が変われば結果も変わります。ボットを断ると表明した機関も確認できず、レポートは不正アクセス対策の設定のままになっていないか確認するよう政府に求めています。
読めないページの裏返しが、読めるページの強さです。レポートが紹介する例では、BBCの記者が自分のサイトに20分で書いた架空の話を、24時間たたないうちにChatGPTとGoogleのAIが答えとして返すようになりました。信頼できる情報が少ない話題ほど、手に入りやすいページが根拠になりやすいという研究にも触れました。
関西の自治体はどうでしょうか。編集部は10月31日に、2府4県と4つの政令市、計10サイトのrobots.txtを読みました。ボットへの方針を書くファイルです。生成AIのボットを名指しして断るサイトはありませんでした。大阪府と京都府、兵庫県、和歌山県、大阪市、堺市、京都市の7サイトにはファイル自体がなく、奈良県と滋賀県、神戸市の3サイトは一部のページや画像を指定しているだけです。とはいえ、国の例でも、文面に名指しが無いまま取得できないサイトがありました。実際にAIが読めるかまでは、今回確認していません。
投票先を聞く実験でも、読めるページに寄った
読めるページが答えを動かすことを示した研究は、日本の選挙にもあります。2026年2月の衆院選の期間に、宮﨑将氏とスタンフォード大学のアンドリュー・ホール氏が、OpenAIとGoogle、xAIの5モデルへ架空の有権者36,300人分の設定で比例代表の投票先を尋ねました。査読前の論文です。
推薦を大きく動かしたのは、属性でなく伝えた政策の立場でした。性別や地域などの違いが0.5〜7.0ポイントだったのに対し、政策の立場では50〜98ポイント動きます。立場を伝えないときと比べると、憲法改正に賛成なら自民党の推薦が50〜68ポイント増え、反対なら共産党の推薦が37〜98ポイント増えました。
目を引くのは、左寄りの立場を伝えると、5モデルとも共産党に寄ったことです。同じ立場の政党は、れいわ新選組や社民党などほかにもあります。立場を伝えない場合は3モデルで自民党の推薦が多く、左寄りの偏りは一様には見られませんでした。
著者らは、原因をモデルの性質より情報環境に求めます。共産党はサイトと「しんぶん赤旗」を開いていてAIが読める一方、主要な報道機関はAIのアクセスを拒否しているからです。著作権を守るための制限そのものは正当としつつ、報道が読めず党のサイトやSNSが読める状態は、答えを党派色の強い情報に近づけかねないと指摘しています。どの政党がよいかを論じた研究ではありません。
米国でも同じ問いが追われています。MITの研究者らは11月の中間選挙に向けて、ダッシュボード「LLM Election Observatory」を公開しました。チャットボットの答えを数日おきに記録するものです。10月30日のMIT Newsによると、利用者の属性を変えると、事実は同じでも見せ方や挙げる出典、語調に違いが見えるといいます。ただ、その差がどこまで安定しているかは、まだ分からないそうです。米国で選挙情報にAIを使う人は、Pew Research Centerの調査で8%でした。
日本でも、前回が2023年4月だった統一地方選挙の時期が来春に巡ってきます。候補者が多く情報の少ない市議会議員選挙のような場では、読めるページの影響がより強く出ることも考えられます。SNSの側では、総務省が選挙に関する指針案を示し、11月24日まで意見を募っています。
お金と手続きは、出どころを開いて確認
AIを使わないほうがよい、という話ではありません。MITのベリンスキー教授も、AIの答えは調べ始めには妥当だとしたうえで、こう話しています。
People should be sure to remember that just because a chatbot sounds confident doesn’t mean it is accurate.
出典: MIT News「Q&A: Hey AI, who should I vote for this year?」
自信のある口調は、正しさの保証にならないということです。
金額や期限、法律が絡む話なら、答えの下のリンクを開いて、どこのページかと更新日を見ておくと間違いが減ります。リンク先が公式でなければ、法令はe-Gov、電気代の補助は資源エネルギー庁、市の制度は市役所のサイトで探し直せます。投票先なら、AIの答えで終えず、候補者本人の発信や選挙公報に当たるのが確実です。同じ質問を別のモデルや別の聞き方で試すと、答えが分かれやすい話題かどうかも見えてきます。
AIが答えてくれた電気代の補助、下のリンクを一つ開くだけで話が変わるかもしれへんで。