大阪大学と月桂冠は2026年9月29日、3Dプリンターで「麹(こうじ)」を造形し、清酒の醸造に使う共同研究の成果を発表しました。米粉に麹菌を混ぜたペーストを立体に造形し、その形によって麹菌の働きを調節できることを確かめた、という内容です。両者の発表をもとに、何ができたのか、何に役立つのかを整理します。
麹菌を混ぜた「バイオインク」を網の形に積み上げた
麹は、蒸した米などに麹菌(学名 Aspergillus oryzae)を育てたものです。麹菌はアミラーゼやプロテアーゼなどの酵素を作り、デンプンを糖に、タンパク質をアミノ酸に分解します。清酒・味噌・醤油づくりに欠かせない存在です。
これまでの米麹は、蒸した米粒の表面や内部で麹菌を育てます。そのため、麹の形や内部の構造を自由に設計するのは難しいものでした。
研究グループが使ったのは、食品をペースト状にして立体に造形する「フードプリンティング」の技術です。大阪大学で、米粉・水・麹菌を混ぜたペーストを「バイオインク」とし、押出式の3Dプリンターで網目状の構造体を作りました。これを培養したものが「3Dプリント麹」です。
大阪大学が示した3Dプリント麹の発酵前と発酵後、清酒もろみと清酒出典: 大阪大学「大阪大学と月桂冠が共同研究 3Dプリンターで「麹」を造形し、清酒醸造に応用」(引用)
培養したあとも麹菌はよく育っていました。3Dプリンターで造形する工程を経ても、麹菌の育つ力は保たれていたことになります。
形を変えると、できる糖やうま味の成分の量が変わる
造形する構造を変えると、麹菌が作るグルコース(ブドウ糖)やグルタミン酸(うま味の成分)の量が変わりました。研究グループは、構造の違いで、麹菌が育つ表面積や通気性、熱の逃げ方、水分の蒸発といった培養の環境が変わったためと考えています。
通常の米麹とは違う代謝(麹菌の体の中の化学反応)が起きている可能性がある、とも説明しています。
小さな仕込みで、アルコール分13%台まで発酵が進んだ
月桂冠では、3Dプリント麹を使って小規模な清酒の醸造試験をしました。発酵はアルコール分13%台まで進み、香りの成分には通常の清酒との違いも見られたとしています。
成果は、2026年9月17日に北海道大学 札幌キャンパスで開かれた第78回日本生物工学会大会で、「麹菌をインク成分とするフードプリンティングと酒造への応用」の題で発表されました。発表の案内に、論文の掲載先は書かれていません。
暮らしと仕事への影響
今回の醸造は小規模な試験です。両者の発表には、3Dプリント麹を使った商品の発売の時期は書かれていません(2026年10月6日時点)。いま店に並ぶお酒がすぐに変わる話ではありません。
両者は今後、麹の形やすき間などの構造と、麹菌が作る酵素や成分との関係をくわしく調べるとしています。そうすれば麹菌の働きを目的に合わせて調節でき、実際の清酒づくりへの応用につながる可能性があると説明しています。発表が挙げる将来の使い道は、次のとおりです。
- 清酒の糖やアミノ酸の組み合わせを調節する
- これまでとは違う香りや味の成分、機能性成分を作る
- これまでにない味わいの清酒や、新しい発酵食品・食品素材を生み出す
大阪・関西では、吹田と伏見の研究所が組んだ成果
研究の中心は、大阪府吹田市にある大阪大学の大学院基礎工学研究科の境慎司教授らと、大学院工学研究科の研究者です。月桂冠の発表によると、大阪大学は大阪の政財界と大阪府市民の強い要望を受け、1931年に帝国大学の一つとして創立されました。
月桂冠は、京都市伏見区に本社を置く酒造会社です。共同研究に加わった月桂冠総合研究所も伏見区にあります。前身は、1909年に酒造りへ科学技術を取り入れるために設けた「大倉酒造研究所」で、1990年に今の名前になりました。
日本生物工学会によると、次の第79回大会は2027年9月に、大阪公立大学 森之宮キャンパスで開かれる予定です。大阪大学の研究は、万博41万人の健康データをAIで解析 近畿大と阪大が見た顔の赤みとBMIの関係でも紹介しています。
形ひとつで麹の働きが変わるんやから、酒造りの研究はまだまだ奥が深いなあ。