生成AIで、だれかの声にそっくりな音声を作れるようになりました。NTT西日本のVOICENCE(ヴォイセンス)カンパニーは2026年9月28日、声の無断利用やAI化への不安を相談できる無料の「声の相談窓口」を開きました。だれが何を相談できるのか、声の権利は今どう扱われているのかを、NTT西日本と法務省の発表(2026年10月4日に確認)から整理します。
「声の相談窓口」はどんな窓口か
声の相談窓口は、声にまつわる疑問や不安を持つ人が、まず最初に相談できる一次窓口です。「何から相談すべきか分からない」段階でも受け付けるとしています。VOICENCEはAI音声の事業もおこなっていますが、窓口は特定の技術やサービスの利用を勧めるものではないと、NTT西日本は説明しています。
NTT西日本が発表で示した「声の相談窓口」の専用サイトの画面出典: NTT西日本 VOICENCEカンパニー(引用)
| 項目 |
内容 |
| 開設日 |
2026年9月28日 |
| 運営 |
NTT西日本 VOICENCEカンパニー、出井甫弁護士 |
| 協力 |
骨董通り法律事務所 |
| 費用 |
無料 |
| 対象 |
声優・俳優・アーティスト・ナレーターなどの実演家、所属事務所、権利を持つ人、企業の担当者など |
| 相談のしかた |
専用サイトの相談フォームから |
| 返信 |
5営業日が目安 |
実演家は、事務所に所属しているかフリーランスかを問いません。相談フォームでは、本人、所属事務所、遺族や権利を継いだ人などの立場を選べます。
相談できること、できないこと
窓口でできることは、大きく3つです。
- 話を聞き、状況を整理する。「無断で使われているかもしれない」と確信が持てない段階でもよいとしています
- 声にどんな権利があるのか、これまでどんな事例があったのかなど、一般的な知識を案内する
- 法的な判断や対応が必要と考えられる場合、希望を確かめたうえで、声の権利に詳しい外部の専門家を紹介する
一方で、窓口では個別の案件についての法的判断や法律相談はしません。外部の専門家の紹介は、相談した人の希望を確かめたうえでおこないます。
想定されている相談の例
NTT西日本は、立場ごとに次のような相談を想定しています。
| 立場 |
相談の例 |
| 声優・俳優・ナレーターなど |
自分の声にそっくりなAI音声が、動画サイトやSNSで無断で公開・販売されている |
| 声優・俳優・ナレーターなど |
AI音声化のオファーを受けたが、何を確かめればよいか分からない |
| 企業のマーケティング・ブランド担当 |
キャラクターや声優のAI音声を作るとき、どんな合意が必要か知りたい |
| 企業のマーケティング・ブランド担当 |
炎上や権利の侵害を避けながら、AI音声を使いたい |
相談の流れは、フォームでの相談、窓口からの返信、必要に応じたオンラインでの詳しい相談、希望があれば外部の専門家の紹介、の4段階です。
相談から外部の専門家の紹介までの4つの段階出典: NTT西日本 VOICENCEカンパニー(引用)
なぜ今、声の相談なのか
NTT西日本は発表の中で、特定非営利活動法人 肖像パブリシティ権擁護監視機構の調査を引いています。AIで芸能人の肖像や声優の声を無断で生成したとみられる画像・動画が延べ4万件以上確認され、経済的な損失は約20億円から45億円と試算されたという内容です。
法務省は「声もパブリシティ権で守られる」と整理
法務省は2026年8月7日、「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」の取りまとめ報告書を公表しました。副題は「生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」です。パブリシティ権は、名前や肖像などが持つ、人を引きつけて商品を売る力を、本人が独占して使える権利です。
報告書は、人の声は「ある人物を他の人と見分ける情報」であり、個人の人格の象徴になるとしています。そのうえで、声はパブリシティ権による保護の対象になると整理しました。報告書には、配信音源に歌手や声優の声が無断で使われた場合の想定事例の検討も入っています。
報告書が示した「侵害に当たる使い方」の型
報告書は、声のパブリシティ権の侵害を、最高裁の判決が示した3つの型に当てはめて整理しています。いずれも、もっぱら声が持つ人を引きつける力を利用する目的で使う場合です。
| 型 |
中身 |
報告書が挙げる例 |
| 1 |
声そのものを、それだけで楽しむ商品として使う |
有名人のボイスメッセージやボイススタンプ |
| 2 |
商品をほかと差別化するために声を付ける |
有名人の声が流れる目覚まし時計 |
| 3 |
声を商品の広告として使う |
広告のナレーション、SNSなどの有名人のなりすまし広告 |
似た声の扱いも示しています。似ている程度に加え、本人を思い出させる情報が付いているかなどを合わせて考え、聞く人が本人の声だと見分けられるなら、本人の声を使ったと認められ得るとしています。
一方で、物まねや声まねの芸は、ふつうは芸をする人が自分の名前を示しておこなうものです。報告書は、こうした物まねや声まねはパブリシティ権の侵害に当たらないと整理しています。ただし、自分の名前を示さずに似た声を使い、聞く人に本人だと誤解させるような場合は、侵害となる余地があるとしています。
| 整理されたこと |
まだないもの |
| 声はパブリシティ権の保護の対象になる(現行法と判例の解釈) |
声だけを直接守る新しい法律 |
| 損害賠償や差し止め、不正競争防止法の当てはめ方の考え方 |
「何に注意し、どんな契約や合意が要るか」の業界共通の基準 |
NTT西日本も、報告書は現行法の解釈を整理したもので、声そのものを直接守る新しい法律ができたわけではないと説明しています。絵や文章の著作権との違いは、AIで作った絵や文章、著作権は大丈夫? 作り手と店の販促の確かめ方で整理しています。問題が起きたときにどこへ相談すればよいか分からない、という状況に応えるのが、今回の窓口のねらいです。
VOICENCEはどんな事業か
VOICENCEは、NTT西日本が2025年10月27日に始めた音声AIの事業です。社内の独立組織「VOICENCEカンパニー」が運営しています。実演家の許諾を得て作る「公認AI音声」を軸に、声の権利の管理から、AI音声の企画・制作までを手がけます。
| 技術 |
内容 |
| 音声合成 |
数秒から数分程度の声から、本人の声の性質や話し方の特徴を再現する |
| 多言語変換 |
本人の声色のまま、日本語・英語・中国語・韓国語・フランス語・スペイン語で話させる |
| 真正性の証明 |
ブロックチェーンなどを使い、許諾を得た公認の音声と、無断で作られた音声を区別できるようにする |
2026年9月9日には、愛企画センターと、「まんが日本昔ばなし」の物語を次の世代や海外へ伝えるための提携を発表しました。第一弾として、権利者や関係者との合意のもとで作った公認AI音声による多言語のコンテンツを、東京・麻布台ヒルズの「まんが日本昔ばなし展」で展示するとしています。NTT西日本は、事業の3年目に売上10億円、5年目に100億円の規模をめざすと発表しています。
大阪・関西では、大阪の会社どうしの活用例も
NTT西日本は大阪市都島区に本社を置く通信会社です。VOICENCEの活用例には、大阪の会社の取り組みもあります。
靴下専門店「靴下屋」を展開するタビオ(大阪市浪速区)は、2025年11月にVOICENCEを使ったと発表しました。声優の花江夏樹さんの音声AIで、店内限定のラジオやアナウンスを作り、11月20日から24日まで全国の対応できる約120店舗で流しました。SNS向けのコンテンツにも同じ声を使いました。
関西の仕事に当てはめると、たとえば次のような場面で、この窓口や公認の考え方が関わります。
- 商店街や観光地の音声案内を、AI音声で多言語にしたいとき、声の持ち主の許諾をどう取るか考える
- 地元で活動するナレーターや芸人が、AI音声化の話を持ちかけられたとき、何を確かめればよいか相談する
- 会社の広告や採用動画で、有名人に似たAI音声を使ってよいか迷ったとき、使う前に確かめる
声を使う側・使われる側が今日からできること
| 立場 |
やること |
| 実演家・事務所 |
自分の声に似た音声を見つけたら、URLや日時を控えて、声の相談窓口などに相談する |
| 実演家・事務所 |
AI音声化のオファーは、用途・期間・言語・報酬などの条件を書面で確かめる |
| 企業の担当者 |
AI音声を作る前に、だれの声をもとにするか、本人や権利者の合意があるかを確かめる |
| だれでも |
声も守られる対象だと知っておく。家族の声をまねた詐欺への備えはAIで作った顔や声の詐欺に備える 家族と店で決めておくことへ |
声を守ることと声を使うことは対立しない、とNTT西日本は説明しています。困ったときに相談先があるだけでも、実演家と企業の両方が動きやすくなります。迷うたら、ひとりで抱えんと、まず相談してみよか。