生成AIを使えば、チラシのイラストやSNSの告知文が数分で作れます。一方で、だれかの作品の権利を侵していないかは、使う前に確かめておきたい点です。この記事では、文化庁が示した考え方と、法務省が2026年8月に出した解釈指針をもとに、絵や文章を作る人と、販促にAIを使う店が確かめたいことを整理します(内容は2026年10月4日時点)。
文化庁の「考え方」とは何か
文化庁の審議会(文化審議会 著作権分科会 法制度小委員会)は、2024年3月15日に「AIと著作権に関する考え方について」をまとめました。AIと著作権を直接扱った判例や裁判例がまだ少ないため、いまの著作権法がAIにどう当てはまるかを、専門家の会議として示したものです。
この考え方は、法律のような拘束力を持つものではありません。最後に判断するのは裁判所です。それでも、国の審議会が示した整理として、使う前の判断の手がかりになります。文化庁は2024年7月31日に、立場ごとの取り組みをまとめた「チェックリスト&ガイダンス」も出しています。
「学ばせる段階」と「作って使う段階」は分けて考える
考え方では、AIと著作権を次の3つに分けて整理しています。
| 分け方 |
中身 |
主に関わる人 |
| 開発・学習の段階 |
作品を集めてAIに学ばせる |
AIを作る会社 |
| 生成・利用の段階 |
AIで画像や文章を作り、公開・販売する |
AIを使う人・店・会社 |
| AI生成物の著作物性 |
AIで作ったものに著作権があるか |
作った人 |
文化庁の資料「AIと著作権に関する考え方について【概要】」の3つの観点のページ出典: 文化庁「AIと著作権に関する考え方について【概要】」(文部科学省ウェブサイト利用規約(公共データ利用規約(第1.0版)準拠))
暮らしや商売でAIを使う人に深く関わるのは、2つめと3つめです。この記事では、この2つを中心に見ていきます。
AIで作ったものが「侵害」になるのはどんなときか
文化庁の考え方では、AIで作った画像をSNSに上げたり、複製して売ったりする場合も、人が作った場合と同じ基準で判断します。基準は次の2つです。
- 類似性: 既存の作品と、創作的な表現が共通していること
- 依拠性: 既存の作品をもとにして作ったこと
この2つがそろい、例外の規定にも当たらない場合に、著作権侵害になります。反対に、似ていない、または元の作品をもとにしていないなら、著作権者の許可なく使えると整理されています。
作品名やキャラクター名を入れると「もとにした」と見られやすい
注意したいのは、AIを使うと、本人が元の作品を知らなくても似たものが出てくることがある点です。考え方では、その作品がAIの学習に使われていた場合、使った人が知らなくても、通常は依拠性があったと推認されるとしています。
また、AIへの指示(プロンプト)に既存の作品そのものを入れたり、作品のタイトルやキャラクター名を入れたりすると、依拠性が認められやすくなるとしています。他人の画像を読み込ませて似た画像を作らせる使い方も、権利者の許可が要る場合があります。
「作風」が似ているだけなら侵害にはならない
著作権法は具体的な表現を守る法律で、アイデアは守りません。考え方では、作風がアイデアにとどまるなら、作風が共通しても侵害にはならないとしています。ただし、特定の作家の少しの作品だけを集め、共通する表現を出させるために追加で学ばせる場合などは、許可が要る場合があると書かれています。
学校の授業で使う場合
チェックリストでは、学校などで先生や生徒が授業の中で使うためにAIで作ることは、その目的の範囲なら原則として許可は要らないとしています。ただし、授業で作ったものをあとでSNSに上げる場合は、家で作ったものと同じく、似た作品がないかの確かめが必要です。
AIで作ったものに、自分の著作権はあるのか
考え方では、人がほとんど指示をせず、ボタンを押すだけでAIが作ったものは、著作物に当たらないとしています。一方、人が表現の「道具」としてAIを使ったと認められれば著作物になり、使った人が著作者になります。
道具として使ったかどうかは、作る意図と、人の創作的な関わりの程度で判断されます。考え方が挙げる目安は次のとおりです。
| 目安 |
考え方での扱い |
| 指示の中身 |
表現を具体的に示す詳しい指示は、創作的な関わりと見られやすい。長いだけでアイデアにとどまる指示は影響しない |
| 作り直した回数 |
回数が多いこと自体は影響しない。結果を見て指示を直しながら繰り返す場合は、認められることもある |
| たくさんの中から選ぶ |
選ぶだけでは影響しない |
| 人が手で直す |
創作的な加筆・修正をした部分は、通常は著作物と認められる |
絵や文章を作る人にとっては、AIの出力をそのまま使うより、自分の手を入れた部分が自分の作品として守られやすいことになります。
顔や声は、著作権とは別のルールで守られる
法務省は2026年8月7日、「生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」を公表しました。生成AIによる顔や声の無断利用が深刻になっているとの指摘を受け、いまの法律と判例をAIの場面に当てはめて整理したものです。
パブリシティ権とは、有名人の名前や顔が持つ、人を引きつける力を本人が独り占めできる権利です。指針は、人の声もこの権利で守られる対象に含まれるとしています。侵害の典型として、顔や声を商品の広告に使う場合を挙げ、本人の了承なしに投資商品を薦めているように見せる「なりすまし広告」も当たり得ると書いています。
絵や文章を作る人ができること
文化庁のチェックリストには、権利を持つ人向けの手引きもあります。主な内容は次のとおりです。
- 自分のサイトの robots.txt(検索やAIの収集プログラムへの指示を書くファイル)で、AIの学習データを集めるプログラムを断る。チェックリストは、学習データを集める事業者の多くがこの記載を尊重すると表明している、と説明しています
- 学習に使われたくない作品は、IDとパスワードでログインが必要な場所に置く
- 似たAI生成物を見つけたら、まず「創作的な表現が共通しているか」を比べ、次に「もとにしたか」を示す材料を集める
- 侵害と認められれば、差止め(使うのをやめさせること)や損害賠償を求めたり、告訴したりできる
困ったときは、文化庁の「文化芸術活動に関する法律相談窓口」が使えます。AIと著作権に関する相談も対象で、弁護士がフォームで受け付け、原則10日以内(土日祝日等を除く)にメールで答えると案内されています。芸術家だけでなく、AIを使う事業者も相談の対象に含まれています。
店の販促にAIを使う前のチェック
チェックリストのAI利用者向けの項目を、店の販促に当てはめると次のようになります。
- 使うAIサービスの利用規約を読む。他人の作品を入れることを禁じている場合もあります
- 指示に、作品のタイトル・キャラクター名・作家名を入れない
- 他人の写真やイラストを読み込ませて、似たものを作らせない
- 使う前に、画像検索や文章の検索で、似た作品がないかを確かめる
- 指示の文と、作った過程を残しておく。似ていると言われたときの説明に役立ちます
- 有名人の顔や声に似せたものは使わない
- 店の中で使い方の決まりを作り、問題が起きたときの対応(使うのをやめる・相手への連絡)も決めておく
大阪・関西では、市や府の職員向けの決まりが手本になる
大阪市は、職員向けの「大阪市生成AI利用ガイドライン」を2024年に定め、改定を重ねて2025年12月22日に第2.4版にしています。どの利用環境にも共通するルールの1つとして、他人の知的財産権などを侵す生成につながる入力を禁じています。
具体的には、作品名やキャラクター名など、既存の作品を思い起こさせる指示文の入力を禁止しています。禁止の例として「キャッチコピー〇〇に似たフレーズを生成してください」「著作物〇〇を参考に文章を生成してください」と入力することや、他人が権利を持つ画像を取り込んで画像を作ることを挙げています。
同じガイドラインは、生成した内容が他人の権利を侵していないかを必ず自分で確かめることも求めています。生成物に特定の人物が含まれる、または思い浮かぶ場合は、パブリシティ権や肖像権の侵害になるケースもあると書いています。
大阪府も、2023年10月31日のスマートシティ推進本部会議で示した「生成AIの利活用に向けた基本方針(試案)」で、既存の作品に似た回答につながる指示をしないこと、回答を外向けにそのまま使う場合はその旨を明記することを、職員のルールとして示していました。
店や作り手に当てはめると
ここからは、関西の暮らしや仕事に当てはめた使い方の例です。
- たとえば、商店街の秋のセールのチラシに、AIで作った季節の背景を使う。人気のキャラクターや有名な作品に寄せた指示は避け、刷る前に画像検索で似たものがないかを見ます。
- たとえば、町工場が新しい製品のカタログに、AIで作った説明の図を入れる。社員が手を入れて仕上げた部分は、会社の著作物として守られる場合があります。
- たとえば、観光客の多い店が、外国語のメニューの説明文をAIで下書きする。文章も同じく、既存の文章とそっくりになっていないかを確かめてから使います。
- たとえば、イラストや文章を仕事にする人が、自分のサイトの作品をAIに集められたくない場合、robots.txt やログインが必要な置き場所を検討する。
今日からできること
- 店や家族で使っているAIサービスの利用規約を、一度読んでおく
- 作品名やキャラクター名を入れて作ったものは、外に出さない
- 外に出す前の「検索で似たものを確かめる」を、作業の手順に入れる
- 指示の文と、作った日付を残す習慣をつける
- 作り手は、robots.txt と作品の置き場所を見直す。困ったら文化庁の相談窓口へ
外に出す前に、もう一回だけ似てへんか確かめよ。