AIを使えば、実在する人の顔や声に似せた動画や音声を作れます。2026年8月7日、警察庁など7つの府省庁は、著名人の顔や声をAIで作った「なりすまし広告」から投資詐欺に誘う被害が広がっているとして、SNSの事業者に対策の強化を求めました。この記事では、公式の情報をもとに、家族と店で先に決めておきたい備えを整理します(内容は2026年10月4日時点)。
いまの詐欺の被害は、数字でどれくらいか
警察庁の暫定値では、2026年1月から8月末までの特殊詐欺は29,687件、被害額は2,360.7億円です。前の年の同じ時期より588.4億円増えました。2026年からは、SNS型投資詐欺やロマンス詐欺も特殊詐欺の手口の1つとして数えています。
| 手口 |
認知件数(1〜8月) |
被害額(1〜8月) |
| SNS型投資詐欺 |
7,097件 |
937.4億円 |
| ニセ警察詐欺 |
6,346件 |
728.6億円 |
| SNS型ロマンス詐欺 |
3,506件 |
325.8億円 |
上半期の分析では、被害額で見ると50代以上が約8割を占めます。一方でSNS型投資詐欺は、20代から50代が被害額の約4割、件数の約6割です。投資詐欺の入口はバナーなどの広告が最も多く、被害額ではInstagramやXが増える傾向です。ロマンス詐欺は約9割がDMから始まり、使われた道具はマッチングアプリが最多でした。ニセ警察詐欺は70代の被害が最も多く、最初の接触の9割以上が電話です。
AIは、詐欺のどこで使われているのか
著名人や政府要人になりすました広告
7府省庁の要請文は、SNSなどで「ディープフェイクを用いて著名人の肖像や音声を無断で利用したなりすまし広告」を含む詐欺広告が広く流通している、と書いています。ディープフェイクとは、AIで作った本物そっくりの偽の画像・動画・音声のことです。
警察庁は2026年2月にも、政府要人の映像や音声を悪用した詐欺広告が確認されていると注意を呼びかけました。首相官邸や政府要人が、個別に投資を勧めたり、個人情報の入力を求めたりすることはないとしています。金融庁も、政府要人や著名人の画像を使った偽のニュースや、「AI診断」をうたってSNSへ誘う手口を挙げています。
国民生活センターが2026年9月1日に公表した相談の例では、SNSで著名人を名乗るアカウントとつながり、投資講座に誘われ、約1,000万円を振り込んだあとで出金に高額な手数料を求められています。著名人の画像を無断で使い、信用させる投稿があると注意を呼びかけています。
経営者の顔や声をまねたビデオ会議
国民生活センターの冊子「くらしの豆知識 セレクト 2026」は、ディープフェイクを使った詐欺の例として、企業経営者の顔や声をAIで再現し、ビデオ会議で部下に偽の指示を出して送金させる手口を紹介しています。個人をねらうロマンス詐欺にも、ディープフェイクの顔の画像や動画が悪用されていると書いています。
警察を名乗るビデオ通話
ニセ警察詐欺では、実在する警察本部の代表番号を表示させて電話をかけ、SNSのビデオ通話で警察手帳を見せる事例が確認されています。警察庁が紹介する事例では、「資金洗浄事件の容疑者になっている」と言われ、資金の調査を名目に250万円を振り込まされました。警察庁は、警察官がSNSで連絡することや、警察手帳や逮捕状の画像を送ることは決してないと明言しています。
愛知県警察本部の代表番号が表示された着信の例。警察庁が手口として公開した出典: 警察庁「警察に偽装した電話番号に注意!」(公共データ利用規約(第1.0版)(PDL1.0))
見分けるより、確かめ方を決めておく
国民生活センターは、偽の動画を見分けるポイントとして、影や光の向き、髪や手の形の違和感、口の動きと音声のずれ、まばたきの不自然さを挙げています。同時に、確かめても真偽が分からないときは拡散しないことが最も大事だとしています。
AIの出来がよくなるほど、見た目や声だけで判断するのは難しくなります。そこで役に立つのが、「お金の話が出たら、この手順で確かめる」と先に決めておくことです。
| 場面 |
公式の機関が示している確かめ方 |
| 警察を名乗る電話 |
電話を切る。教えられた番号には折り返さず、#9110に相談する(警察庁) |
| 著名人が勧める投資 |
著名人の公式サイトや公式アカウントで、注意喚起が出ていないか確かめる(国民生活センター) |
| 振込先が個人名義の口座 |
それは詐欺。振り込まない(消費者庁) |
| 家族を名乗る電話 |
まず最初に合言葉を確かめる(政府広報オンライン) |
家族で決めておくこと
政府広報オンラインは、家族にしか分からない合言葉を決めておくよう勧めています。例として「中学生のときの部活は?」「妻の旧姓は?」を挙げ、家族を名乗る電話でも、まず合言葉を確かめるよう書いています。声をまねられても、合言葉までは分かりません。
電話の入口をふさぐことも効きます。政府広報オンラインによると、特殊詐欺に使われる電話番号の約7割が「+1」や「+44」などで始まる国際電話番号です(2025年7月末時点)。固定電話は、国際電話不取扱受付センター(0120-210-364)に申し込めば無料で国際電話を止められます。スマートフォンは、着信の設定やセキュリティのアプリで国際電話番号からの着信を制限できます。
警察庁は、一定の基準に合う詐欺対策のアプリを「警察庁推奨アプリ」として認定しています。親のスマートフォンに入れるかどうかを、家族で一度話しておくとよいでしょう。
店や小さな会社で決めておくこと
警察庁は2026年2月、会社をねらう「ニセ社長詐欺」に注意を呼びかけました。社長などを名乗るメールが会社の公開アドレスに届き、SNSのグループに誘い込んだうえで、口座残高を聞き出し、送金させる手口です。実在する社長名や会社名が使われるため、気づきにくいとしています。
ニセ社長詐欺で実際に送られたメール。LINEのグループを作るよう求めている出典: 警察庁「法人を対象とした詐欺(ニセ社長詐欺)に注意!」(公共データ利用規約(第1.0版)(PDL1.0))
警察庁が挙げる対策は、社内での情報共有、送金ルールの再確認、SNSグループの利用を指示されたときの警戒です。経営者の顔や声をAIでまねたビデオ会議の例もあることから、たとえば次のような決まりが考えられます。
- 送金や支払い先の変更は、メールやビデオ通話の指示だけで実行しない
- 指示を受けたら、ふだん使っている電話番号に、こちらからかけ直して本人に確かめる
- 急ぎや秘密を強調する指示ほど、ほかの人と一緒に確かめる
大阪・関西では
大阪府警によると、2026年7月末までの大阪府内の特殊詐欺は2,506件、被害額は約197億円(速報値)です。前の年の同じ時期より約51億円多く、1日あたり約9,400万円の被害が出ている計算です。
ニセ警察詐欺は580件・約81億円で、1件あたりの平均は約1,400万円です。被害の約7割を20代から60代が占めます。SNS型投資・ロマンス詐欺は874件・約93億円で、1件あたり約1,070万円です。大阪府警は「被害は高齢者だけじゃない」「警察官がSNSでやりとりを求めることは絶対にありません」と呼びかけています。
大阪府警は、2025年の府内の特殊詐欺(SNS型投資・ロマンス詐欺を除く)の約7割は電話が入口で、詐欺電話の約6割に国際電話番号が悪用されたとしています。国際電話の休止と推奨アプリを広める取り組みを「#みんとめ(みんなでとめよう!!国際電話詐欺)」と名づけています。会社向けには「従業員を詐欺から守ろう」運動として、啓発のチラシや動画を提供しています。
大阪府は「大阪府安全なまちづくり条例」を改正し、2025年8月1日(振込の上限は10月1日)から施行しています。主な中身は次のとおりです。
- SNS型投資・ロマンス詐欺も対象に加え、「特殊詐欺等」とした
- 65歳以上の人が携帯電話で通話しながらATMを操作することを禁止
- 過去3年間振込のない70歳以上の人の口座(府内が登録住所)は、ATMでの1日の振込上限を10万円以下に
- プリペイド型の電子マネーを売る店は、レジ付近への掲示と、5万円以上を買う人への書面での確認が必要
コンビニなど電子マネーを売る店では、条例による確認が店の役目になっています。
大阪府警の「安まちアプリ」は、府内の犯罪の発生情報や防犯対策の情報を届ける防犯アプリです。通知を受ける地区や情報の種類を選べるので、離れて暮らす親の住む地区も選んでおく使い方ができます。
今日からできること
- 家族で合言葉を決め、「お金の話が出たら合言葉」を約束する
- 実家の固定電話の国際電話を、0120-210-364で休止する
- 親のスマートフォンに、警察庁推奨アプリを入れるか相談する
- 店や会社で、送金はかけ直して確かめる決まりを作る
- 著名人の投資の広告を見たら、本人の公式サイトを確かめる。迷ったら#9110か、消費者ホットライン188へ
お金の話が出たら、いったん切って確かめよ。