2026年10月8日、内閣府の消費者委員会の専門調査会が、AIと消費者問題の「検討状況(案)」を示しました。AIのチャットや勧めが、買い物や契約の前の好みや判断にどう影響するかが論点です。これは議論の途中の整理で、決まった制度やルールではありません。
この資料は何か、まだ何が決まっていないか
会議は「人工知能(AI)技術の利用と消費者問題に関する専門調査会」の第11回です。議題は、事務局による検討状況の報告と、NTT社会情報研究所の秋山満昭上席特別研究員へのヒアリングでした。議事録は、会議のページでは準備中と案内されています(2026年10月9日時点)。
資料1のタイトルは「専門調査会の検討状況(案)」です。これまでの論点と議論を整理したもので、法律の改正や新しい規則を決めたものではありません。この記事も、資料に書かれた範囲だけを紹介します。
契約の「前」の好みへの影響が論点になっている
資料1は、AIが事業者に使われると、消費者の意思決定に影響しうると整理しています。資料の言葉では、AI技術について「個別の契約成立過程より前の、曖昧で潜在的な選好・問題認識・ニーズ等(以下「選好等」という。)の形成過程への影響力が増している」とあります。
つまり、買う契約をする場面だけでなく、その前の「何がほしいか」「何が気になるか」という段階が対象です。資料は、選好等への影響は契約に至らないものも含めた消費行動への将来的な影響を含む点にも留意すべきだとしています。
現行の民法・消費者法による契約成立過程の規律だけでは、必ずしも十分に対応しきれない場面も想定されるとして、対応のあり方について議論を深める必要があるとしています。
消費者が自分で気づいて直すのは難しい
資料1は、AIと消費者の意思決定の関係について、特徴を3点挙げています。その3つ目が、次の整理です。
意思決定プロセスに係るリスクにつき、消費者が自ら不利益に気付き是正することは容易ではなく、消費者個人での自衛が困難といえる。
出典: 内閣府 消費者委員会事務局「専門調査会の検討状況(案)」3ページ
資料1の3ページ。意思決定への影響と「消費者個人での自衛が困難」の整理出典: 出典: 内閣府 消費者委員会事務局「専門調査会の検討状況(案)」(内閣府ホームページ利用規約(令和7年3月25日現在)により公共データ利用規約(第1.0版)。資料1は事務局作成・2026-10-09確認)
この整理から、資料は、多様な主体によるAIシステムの運用・設計の継続的な検証・調整をはじめとする環境整備、つまりAIガバナンスを通じて、リスクの低減と利益の実現の促進を目指すことが重要だとしています。
想定事例は「助言を信じすぎて、専門家に相談しそびれる」
資料1のケーススタディの想定事例は、次の1文です。「対話型AIの助言を過度に信頼した結果、専門家への相談を行う機会を逸した」。大塚委員の提供資料に基づき、事務局が作成した事例と書かれています。
この事例について、資料はAIの開発・設計の段階で考慮すべき要素の例を挙げています。事業者側の設計に向けた論点で、消費者に求める行動ではありません。
- 過度な信頼を防ぐ措置がとられていたか。当該AIの出力が専門家の意見に代替するものではないことが明らかにされていたか。
- AIの出力内容自体を完全に統制することは困難であるとしても、消費者の意思決定への過度な介入や過度な信頼・依存を防ぐため、UI等を通じた適切な予防措置を開発・設計段階で講じることは合理的に期待できたか。
資料1の6ページ。想定事例と、開発・設計段階で考慮すべき要素の例出典: 出典: 内閣府 消費者委員会事務局「専門調査会の検討状況(案)」(内閣府ホームページ利用規約(令和7年3月25日現在)により公共データ利用規約(第1.0版)。資料1は事務局作成・2026-10-09確認)
損をしたときの責任は、どう考えるのか
資料1の7ページは、民法709条(不法行為による損害賠償)を取り上げています。条文は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」です。
資料は、この条文は包括的な規定なので技術の発展に順次対応でき、AI以前から新しい技術に条文の解釈で対応してきたと説明しています。一方で、解釈については裁判所の裁量の余地が大きく、予見可能性の確保が課題とされています。
AIについての問題点として、資料は次の2点を挙げています。
- 開発者・提供者・利用者がどのような義務を負うかの規範的評価が必要。
- 被害者が過失・因果関係を証明する必要があり、AIのブラックボックス性により、証明は困難。
6ページには、ガイドライン等で考慮要素が整理・明確化されることは、不法行為法(第709条)で注意義務の内容の検討や過失の判断の際に参照され得ると考えられる、という記述もあります。これらも「議論の概要」で、結論ではありません。7ページは大塚委員の提供資料に基づくと書かれています。
資料2の要点は、暮らしに関わる3つ
資料2は、NTT社会情報研究所の秋山満昭氏の提出資料です。冒頭に「所属組織の公式な見解や方針を代表するものではありません」と書かれ、公開された研究成果を中心に紹介する内容です。調査会の結論ではありません。暮らしに関わる点は、次の3つです。
- 会話を通じた操作や欺瞞。画面の見せ方で誘導する従来の「ダークパターン」に対し、自然言語で行われる「LLMダークパターン」は、通常の支援的な会話との境界が曖昧だと説明しています。ユーザーの認識だけに依存した対策には限界があり、責任の所在が曖昧だとしています。
- AIの支援の効果。AI支援を除去すると効果は継続せず、長期実験では開始時より低下したという研究が紹介されています。AI支援下での判断の改善は、人間自身の判断能力の向上とは限らないとしています。
- まとめの視点。情報の正確性や安全性だけでなく、AIとのやりとりが消費者の選択・自律性・判断能力に与える影響を捉える視点も重要になる、と書かれています。
関西の暮らしと仕事での使いどころ
今回の資料は全国の専門調査会のもので、大阪・関西に特有の取り組みや予定は書かれていません。ここでは、資料の整理を暮らしに当てはめて考える例を挙げます。
たとえば、通販サイトや旅行の予約で、AIのチャットに「おすすめを教えて」と聞く場面があります。資料の言葉でいえば、これは契約の前の選好等がつくられる段階です。買う前の段階にもAIが関わりうる、と知っておくと、勧めの受け止め方が変わります。
商店街の店や小さな会社でAIの接客や案内を使う場合も、資料の考慮要素の例が参考になります。出力が専門家の意見に代替するものではないと伝わっているかは、使う側が確かめられる点です。
今日からできること
資料に書かれた範囲では、次のように整理できます。
- 資料の想定事例のように、AIの助言だけで決めず、専門家に相談する機会を残す。
- 勧められた内容が、自分の好みで選んだのか、AIの勧めで気になったのかを振り返る。
- 買い物や契約で困ったときは、消費者ホットライン188に相談する。
消費者庁の案内では、188は地方公共団体が設置している身近な消費生活センターや消費生活相談窓口を案内する番号です。郵便番号等を入力して最寄りの窓口につなぎます。相談は無料ですが、窓口につながった時点から通話料金がかかります。平日に話し中のときは、国民生活センターのバックアップ相談(03-3446-0999・平日10時から16時)もあります。
制度の動きは、これから変わる可能性があります。議事録は、会議のページで準備中と案内されています。決まった内容は、内閣府の専門調査会のページなど公式の発表で確かめてください。国のAIに関するルールの全体像は、国のAIのルールは暮らしと仕事にどう関わる? AI法と基本計画の要点も参考になります。
AIの勧めは、便利やけど信じすぎは禁物や。決める前にひと呼吸おいて、困ったら188に電話しとき。