ノルウェー政府は、AI眼鏡(スマートグラス)の一時的な禁止を提案する方針です。デジタル化・行政担当の大臣が2026年10月5日(現地時間)、議会で述べました。販売の禁止には否定的で、この記事では議会の公式の記録で確かめられた範囲を整理します。
大臣が議会で「一時的な禁止を提案する」と表明
10月5日の議会では、国王が開会にあたって述べた演説についての討論(trontaledebatt)が行われました。2日間の日程の1日目です。
発言したのは、デジタル化・行政担当の大臣のトルゲイル・ミカエルセン氏(Torgeir Micaelsen)です。役職の原語はdigitaliserings- og forvaltningsministerです。AIの政策を説明する中で、次のように述べました。
I dag har jeg også varslet at regjeringen vil foreslå et midlertidig forbud mot KI-briller.
出典: Stortinget「Møte mandag den 5. oktober 2026 (under arbeid)」
(当社訳)きょう、政府がAI眼鏡の一時的な禁止を提案することも明らかにしました。
「KI-briller」は、AI(ノルウェー語の略でKI)の付いた眼鏡を指す言葉です。どの機器までが対象になるかは、議会の記録に書かれていません。
政権を担う労働党(Arbeiderpartiet)の議員は同じ討論で、恒久的な決まりができるまでの間の禁止だと説明しました。
項目
議会の記録で確かめられたこと
何を
AI眼鏡(KI-briller)の一時的な禁止を、政府が提案する
表明した日
2026年10月5日(現地時間)の議会の討論
販売
大臣は販売の禁止に否定的
対象の機器の範囲
書かれていません
対象の場所
正式な一覧は書かれていません
始まる時期・罰則
書かれていません
録音の扱い・表示の義務
書かれていません
販売は止めない考え、大臣が挙げた理由は2つ
社会主義左翼党(SV)の議員は質問の中で、政府の方針を紹介しました。学校、ショッピングセンター、病院、公園といった一部の場所で、AI眼鏡を禁じるという説明です。そのうえで、なぜ販売も止めないのかを大臣にたずねています。
ノルウェー議会の10月5日の議事録(作成中の版)。販売を止めない理由を大臣が答えた部分 出典: Stortinget(ノルウェー議会)「Møte mandag den 5. oktober 2026 (under arbeid)」 (引用)
大臣は理由を2つ挙げました。1つ目は、弱視の人など、AI眼鏡やスマートグラスに正当な使い道を持つ人がいて、販売の禁止はその人たちにも及ぶことです。2つ目は、短い期間で実現できる法律の枠組みが要ることで、販売の禁止は短期間では実施できないと述べました。
大臣は、監視をおそれて自分のふるまいを抑える人が増えていく社会にはしたくない、とも話しています。とくに子どもや若い人を挙げました。
同じ10月5日、SVの議員2人は議会に提案(Dokument 8:8 S)を出しました。カメラなどのセンサーを組み込み、ほかの人をひそかに監視できる身につける機器について、販売と使用の両方を一時的に禁じるための案を、政府が速やかに出すよう求める内容です。補助具として必要な人のための例外も求めています。
議会のサイトによると、この提案の委員会での審議はまだ行われていません。同じサイトで「KI-briller」を検索 したかぎり、政府の法案もまだ載っていません(どちらも2026年10月7日時点)。
「気づかれずに撮れる」ことへの心配が理由
大臣は10月2日の書面の答えで、心配の中身を説明しています。カメラ付きのスマートグラスのように見つけにくい機器が広がると、相手に知られずに写真や動画を撮るハードルが下がるという点です。人々がふだんと違うふるまいをするようになる「萎縮」も心配だとしています。
一方で、良い使い道も挙げました。一部の職場での新しい工夫、障害のある人の助け、スポーツ の思い出を残すことです。そのうえで、良い目的の利用を妨げない「的をしぼった禁止」を検討することがあり得ると答えています。
今の法律については、司法・危機管理大臣(justis- og beredskapsminister)が6月17日に答えています。その答えによると、ノルウェーの法律にスマートグラスを名指しした禁止はありません。一方で、個人データの決まりや刑法などに、プライバシー を侵す行為から守る一般的な規定があるとしています。
日付(2026年)
議会の記録にあること
6月17日
司法・危機管理大臣が、スマートグラスを名指しした禁止は今の法律にないと答える
8月25日
デジタル化・行政担当の大臣が、専門家のグループを置くと報道発表で予告(8月31日の答えに記載)
9月22日
大臣が「カメラ付きのAI眼鏡は保育園にも学校にもふさわしくない」と答える
9月28日
専門家のグループに何を任せるかを省が作成中と答える
10月2日
大臣が「的をしぼった禁止」の検討に触れる
10月5日
大臣が議会で、一時的な禁止を政府が提案すると表明
8月31日の答えによると、専門家のグループは、スマートグラスやイヤホンなど、カメラとAIの機能を備えた機器の規制の選択肢と案を出します。政府はそのあとで、新しい規制の案があれば検討し、意見を募る手続き(høring)にかけるとしています。
日本の今の決まりはどうなっているか
日本について、今回は個人情報 保護委員会と法務省の公式のページを確かめました。どちらにも、スマートグラスやAI眼鏡を名指しした決まりは書かれていません(2026年10月7日時点)。
店や駅のカメラ: 個人情報保護委員会のQ&A(Q1-13)は、店や駅、空港などに防犯 カメラを置く事業者への案内です。特定の個人を識別できる画像を取得する場合は個人情報を取り扱うことになり、利用目的をできる限り特定する必要があるとしています。撮られていることを本人が容易に認識できないときは、掲示などで分かるようにする措置が要るとしています。
だれ向けの決まりか: このQ&Aが対象にしているのは「個人情報取扱事業者」です。同委員会は、個人情報データベース等を事業に使っている者がこれに当たると説明しています。
ひそかな撮影: 法務省によると、性的姿態撮影等処罰法は、一部の規定を除いて2023年7月13日に施行されました。性的な部位や下着などを、正当な理由がないのに、ひそかに撮影する行為などが処罰の対象です。
カメラ付きの眼鏡型の機器は、日本でも発売が発表されています。MetaとEssilorLuxotticaは2026年5月19日、Ray-Ban Meta(Gen 2)とOakley Metaの日本での発売を発表しました。発売日は5月21日で、Ray-Ban Meta(Gen 2)は1200万画素の超広角カメラを備えています。
今回確かめたAI眼鏡についての発言と答えの中に、日本についての記載はありません。
暮らしと仕事への影響
ノルウェーへ旅行や出張に行く人: 禁止はまだ提案の段階で、始まる時期は議会の記録に書かれていません。ただ、大臣の答えによると、職場や学校、保育園が独自に使用を制限する動きはすでにあります。カメラ付きの眼鏡を持っていくなら、訪ねる施設の決まりを先に確かめておくと安心です。
店や会社、学校を運営する人: 9月28日の答えによると、ノルウェーでは公的な機関と民間の事業者に呼びかけがありました。自分の職場や施設でスマートグラスを認めるかを検討してほしい、という内容です。日本でも、更衣室や会議室、レジのまわりでの扱いを話し合う材料になります。
カメラ付きの眼鏡を持っている人: 大臣は持ち主に、使うときは慎重にし、人の近くでは気配りをするよう呼びかけています。
日本のAIのルールは、国のAIのルールは暮らしと仕事にどう関わる? AI法と基本計画の要点 にまとめています。
関西の暮らしと仕事での使いどころ
関西の会社や自治体の公式の情報は、今回は確かめていません。ここでは、人の多い街や店での気配りの例を挙げます。
観光客の多い商店街の店: たとえば、入口やレジの横に「撮影の前にひと声かけてください」と日本語と英語で書いておく使い方ができます。眼鏡型のカメラも同じ扱いだと一言そえると伝わりやすくなります。
銭湯やジムなど、更衣室のある施設: たとえば「カメラの付いた眼鏡は、脱衣所に入る前にはずしてください」と掲示する方法が考えられます。
学校の行事や習いごとの発表会: たとえば案内のプリントに、眼鏡型のカメラもスマホと同じ撮影の決まりに従うと書いておく方法があります。
カメラ付きの眼鏡を持っている人: たとえば、混んだ電車や人の多い通りでは、撮らないときははずしておくという気配りができます。
撮る前にひと声かけるんは、眼鏡でもスマホでも変わらへんで。