和歌山県警察本部サイバー犯罪対策課が、警察庁の報告書「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」を、チラシ「Cyber Security News R8.9」で紹介しています。報告書は2026年9月10日付で、2026年1月から6月の状況をまとめたものです。
この記事では、チラシの見出しのうち、暮らしに近い話を中心に、報告書の数字で確かめます。
何が「過去最多」なのか
チラシの見出しには「ランサムウェア被害は過去最多です」「インターネット詐欺の被害額も過去最多です」とあります。報告書の数字を見ていきます。
ランサムウェアの被害は123件
ランサムウェアは、パソコンなどのデータを暗号化して使えなくし、元に戻す代わりにお金を求める不正なプログラムです。報告書は、データを盗んだうえで「払わなければ公開する」と求める手口が、被害の多くを占めるとしています。
2026年上半期の被害報告は123件でした。統計を取り始めた2020年下半期以降、半期の件数として最多です(報告書9頁)。
報告書9頁。ランサムウェア被害報告件数のグラフ(図表4)出典: 警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(引用)
前の半期(2025年下半期)は110件、その前(2025年上半期)は116件でした(統計データの図表4)。
被害にあった会社や団体の規模は、中小企業が約6割です。業種は製造業が約3割で、卸売・小売業、情報通信業などが続きます(11頁)。アンケートでは、復旧に1,000万円以上かかった組織が6割で、1か月未満で復旧できたのは5割弱でした。
会社向けの話ですが、被害が出ると、サービスの停止や個人情報の流出を通じて、お客さんの暮らしにも響きます。
インターネットを使った詐欺の被害額は1,755億円
インターネットを使った詐欺の被害額は、2026年上半期で1,755億円でした。前年同期(1,209億円)より45%増えています(13頁)。インターネットを使った犯罪は3万838件で、約9割が詐欺です。
詐欺のうち、通話・通信アプリを使ったものが約6割を占めます。統計データでは、被害額の1,755億円のうち、通話・通信アプリが1,473億円です。
ここで注意点があります。チラシは「過去最多」と書いていますが、報告書の本文は「増加傾向」「前年同期比45%増」と書いています。2025年の1年間は3,184億円で、半年の数字とは並べて比べられません。
もうひとつの数字が、特殊詐欺(SNS型投資詐欺とSNS型ロマンス詐欺を含む)です。2026年上半期の被害額は約1,816億2,000万円で、前年同期より51.7%増えました。過去最悪だった2025年の被害額を上回るペースだと、報告書は書いています(15頁)。
内訳として、ニセ警察詐欺が507.9億円、SNS型投資詐欺が797.9億円、SNS型ロマンス詐欺が246.6億円です(統計データの図表10)。なお、警察庁は図表10の一部の数字を訂正していて、この記事の数字は訂正後のものです。
暮らしに近いネットの脅威
フィッシングは、リンクから偽のサイトへ
フィッシングは、実在する会社を装ったメールやSMSのリンクから偽のサイトに誘導し、ID、パスワード、クレジットカード番号などを盗む手口です。
2026年上半期の報告は約73万件でした(フィッシング対策協議会、17頁)。前年同期は119.6万件で、件数だけ見れば減っています(統計データの図12)。ただ報告書は、AIの発達で、文章が自然になり、見抜きにくいものが増えていると書いています。
チラシの「外国からのフィッシングも深刻です」の根拠は、18頁の分析です。警察庁のサイバー特別捜査部が、過去1年間(2025年8月1日〜2026年7月31日)のフィッシングメールとみられる約36万件を調べました。メールを送ったサーバーの所在国は、中国が45%、日本が14%、ブラジルが10%、アメリカが8%、その他・不明が23%でした。あくまでサーバーの所在地の割合です。
多くの送信元は、1〜3日だけ、1〜3通を送っていました。報告書は、送信用のサーバーを短い期間で切り替える傾向が強いと分析しています。
違法・有害な情報が広がっている
インターネット・ホットラインセンター(IHC)は、ネット上の違法・有害な情報の通報を受け付けています。2026年上半期にIHCが違法・有害と判断した情報は7万1,704件で、前年同期より46%増えました(31頁)。
内訳は、違法情報が6万8,842件(約53%増)、自殺誘引等情報が2,755件です。違法情報のうち、犯罪実行者の募集情報が1万2,516件(約97%増)ありました。「高額」「即日即金」「ホワイト案件」といった言葉で、仕事の内容をぼかして募集する投稿が、強盗や特殊詐欺につながっていると、報告書は指摘しています(32頁)。
災害のときの偽・誤情報も取り上げられています。2026年7月28日の「令和8年熊本地震」では、関係のない建物の倒壊動画や、事実と異なる投稿が確認されました(34頁)。
そのほか、ネットバンキングの不正送金は253件で約20億7,000万円(前年同期比51%減)、パソコンのウイルス除去などを名目にした「サポート名目」の架空料金請求詐欺は735件(10.4%増)でした(19頁、22頁)。
大阪・関西では
和歌山県警察本部サイバー犯罪対策課のチラシは、報告書の6つの話題を1枚で紹介しています。ランサムウェア(本文9頁)、インターネット詐欺(13頁)、フィッシング(18頁)、違法・有害情報(31頁)、諸外国と連携した北朝鮮IT労働者に関する注意喚起(51頁)、都道府県警察の体制強化(72頁)です。警察庁のウェブサイトからダウンロードできることも書かれています。
和歌山県警が作成したチラシ。報告書の6つの話題を紹介出典: 和歌山県警察本部サイバー犯罪対策課「Cyber Security News R8.9」(引用)
報告書には、和歌山県や関西の都道府県ごとの数字は載っていません。チラシにも、和歌山県のデータはありません。「関西でどれくらい被害が出ているか」は、この資料からは分かりません。
チラシが紹介している北朝鮮IT労働者の注意喚起は、2026年7月に警察庁などが、米国や韓国などの関係機関と公表したものです。報告書によると、各国の機関は、北朝鮮がIT労働者を外国に派遣していること、身分を偽って仕事を受注して収入を得ていること、その収入が核・ミサイル開発の資金源になっていることを指摘しています。仕事を発注する会社に、本人確認の強化を求めています(51頁)。
関西の警察が出てくる箇所は、2つあります。ひとつは、近畿管区警察局兵庫県情報通信部の情報技術解析課です。2026年3月、警察庁の高度情報技術解析センターとともに、粉々に壊されたスマートフォンの機能を回復させてデータを取り出し、特殊詐欺の捜査に役立てました(42頁)。もうひとつは、国際的な捜査の取り組みです。警視庁、石川県警察、京都府警察、大阪府警察が、事業者にマルウェア感染の疑いを伝え、24台のサーバーが止められました(57頁)。
チラシの最後の見出しは、都道府県警察の体制強化です。報告書によると、2026年5月29日に警察法施行令が改正され、都道府県警察はサイバー警察部などで、サイバー関係の仕事をまとめて受け持つ形になります。各警察は準備を進めている段階で、和歌山県警の具体的な予定は、報告書にもチラシにも書かれていません。
会社向け 和歌山県警が10月号で紹介した4つの資料
和歌山県警のサイバー犯罪対策課は、10月号のチラシ「ランサムウェア被害拡大中」でも、上半期の123件を「半期ごとでは過去最多」と取り上げています。あわせて、各機関が出している対策の資料を4つ紹介しています。関西の会社やお店で、対策を任されている人に向けた内容です。
| 出している機関 |
資料 |
どんなものか |
| IPA(情報処理推進機構) |
ランサムウェア被害から学ぶ教訓集 経営者のためのランサムウェア対策ハンドブック |
2026年9月8日公開。経営者に向けた資料 |
| 日本サイバー犯罪対策センター(JC3) |
JC3ポッドキャスト ランサムウェア・ダイアログ |
2025年12月8日から配信。専門家との対話を、音声で聞ける |
| 個人情報保護法サイバーセキュリティ連絡会 |
不正アクセス発生時のフォレンジック調査の有効活用に向けた着眼点 |
2026年1月16日付。不正アクセスが起きたあとの調査の使い方をまとめた40ページの資料 |
| 政府広報オンライン |
動画「中小企業で被害多数 ランサムウェア」 |
2025年6月12日公開。被害にあう前の備えと、あった場合の対応を紹介 |
フォレンジック調査は、パソコンやサーバーに残った記録を調べて、何が起きたかを確かめる調査です。
チラシは、被害にあってしまったら警察に通報・相談を、と呼びかけています。
今日からできること
報告書やチラシに書かれた対策を、暮らしの場面にあてはめます。
- メールやSMSのリンクは、すぐに開かない。公式のサイトや公式のアプリから入り直す(報告書17頁)
- 「高額」「即日即金」「ホワイト案件」とあるアルバイトの募集には、近づかない。家族や友だちにも伝える
- 「テレビにつなぐと海外の動画が無料で見られる」とうたう機器や、無料のVPN、無料の音楽アプリには注意する。家庭の機器が、気づかないうちに悪用された例があります(25頁)
- 家電やネット機器を買うときは、メーカーのサイトで仕様やセキュリティの情報を見る。国の制度「JC-STAR」のラベルが付いた製品を選ぶ。買ったあとも対策を続ける(26頁)
- 会社や店では、社長を名乗るメールで「SNSのグループを作って」と言われたら、送金のルールに戻る。ニセ社長詐欺は2026年1月から6月に127件、被害額は約38億8,000万円でした(21頁)
- 災害のときの投稿は、公的機関の発表で確かめてから広げる
- 会社やお店で対策を任されている人は、上の4つの資料のうち、まず政府広報オンラインの動画か、IPAの教訓集から見る
被害にあったかもしれないときは、警察庁の「サイバー事案に関する相談窓口」を使えます。報告書は、風評被害の心配や「届け出るべきか分からない」ことから、被害者が通報や相談をためらう傾向があると書いています(35頁)。迷ったら、まず相談してください。
報告書の全文と統計データは、警察庁の一覧のページから見られます。
数字は大きいけど、リンクを開く前にひと呼吸おくだけで、守れる被害もあるで。
2026年10月13日 更新: 和歌山県警の10月号のチラシ「ランサムウェア被害拡大中」が紹介している、会社向けの4つの資料を書き足しました。