滋賀大学 経済学部の田中勝也教授と近藤紀章講師らは、家の近くの道路で車の速度や通り抜けを抑える「交通 静穏化」について、住民がどの整備方法を好み、いくらなら負担してよいと考えるかを分析した論文を、国際学術誌Transportation Research Part Aに発表しました。好まれる方法と、費用を払ってでも実現したい方法は必ずしも一致しない、という結果です。
滋賀大学経済学部のお知らせ(交通静穏化の論文・10月22日) 出典: 滋賀大学経済学部 (引用)
何を調べた? 8つの整備案と、毎月の負担額
滋賀大学 経済学部の10月22日のお知らせによると、この研究は大学の学長裁量経費を使い、米国のポートランド州立大学とポートランド市交通局と組んで行った調査を分析したものです。
対象: ポートランド市内の19路線の沿線に住む1,717人
聞いたこと: 8種類の整備案から最も好ましい案と好ましくない案を選んでもらう。毎月の負担額を示し、その金額を払う場合に交通静穏化に賛成するかを尋ねる
整備案には、道路の中央に歩行者がいったん待てる場所を設ける「中央待避島」、交差点の中央の小さな島の周りを車が回る「小型ラウンドアバウト」、車の通り抜けを制限する「ダイバーター」、路面を盛り上げて車の速度を落とす「スピードハンプ」、歩行者と車が道を分け合う「共有空間」などがあります。
結果は? 好みとお金を出す気持ちは一致しない
主な結果は次のとおりです。
好まれた整備案: 中央待避島と小型ラウンドアバウトが特に好まれました。ダイバーターとスピードハンプは全体として好まれにくく、住民の間で評価が大きく分かれました。
負担してよい額: 1世帯あたり平均で月約34ドル、中央値で約30ドルと推計しました。近所の道路は車が多く自転車で走りにくいと感じる人、歩きや自転車での移動を好む人、幼い子ども がいる世帯ほど、費用を負担することに前向きでした。高齢者 や、地域の治安に不安を感じる人は、賛成が低い傾向がありました。
好みと負担の意思のずれ: 全体で評価が高かった中央待避島を好む人は、追加の費用の負担には消極的でした。一方、評価が分かれた共有空間やダイバーターを好む人は、費用の負担に前向きでした。
研究グループは、住民が「どの方法を好むか」と「実現のためにどこまで費用を受け入れるか」をあわせて捉えた点が特徴だとしています。限られた予算や道路の空間の中で、整備の内容や優先順位を考えるときの手がかりになり、住民参加の道路づくりや、費用の負担を伴う安全対策の制度の設計にも生かせると説明しています。
もう一つの論文 琵琶湖の60年前の漁獲記録をデータで読み解く
近藤講師とデータサイエンス学部の佐藤健一教授らは、1962年から1972年までの琵琶湖の漁獲記録を分析した論文を、国際学術誌PLOS ONEに発表しました。河川財団とJSPS科研費の助成を受けた研究です。
滋賀大学経済学部のお知らせ(琵琶湖の漁獲記録の論文・10月22日) 出典: 滋賀大学経済学部 (引用)
魚や貝、エビなど13区分の漁獲量をもとに、44の港ごと・年ごとに、どんな魚介類がどの割合で水揚げされていたかを、「非負値行列因子分解(NMF)」という統計の手法で4つの基本パターンの組み合わせとして整理しました。
フナ、シジミ、コアユがそれぞれ大きな割合を占める3つのパターンは、分析の条件を変えても同じように見つかった
イサザ、スジエビ、モロコ類などが混ざる4つ目のパターンは安定性が低く、全体をいくつのパターンで表すのが最もよいかは一つに定まらなかった
近くにある港どうしで、似た傾向が見られた
琵琶湖では今、漁獲の情報のデータ化が進められていて、今回整理した記録と分析の結果は、今後たまっていくデータと過去を比べるときの参照点になるとしています。
暮らしと仕事への影響
日本でも、生活道路の安全は身近な課題です。警察庁の資料によると、2025年の交通事故の死傷者のうち、歩行中と自転車に乗っているときの人が占める割合は、車道の幅が5.5メートル未満の道路で、5.5メートル以上の道路の約1.9倍でした。警察庁は、最高速度30キロの区域規制と、ハンプなどの物理的な仕掛けを組み合わせる「ゾーン30プラス」を、地域の住民と合意を作りながら進めるとしています。
今回の調査は米国の住民が対象で、日本にそのまま当てはまるとは限りません。それでも、評価が分かれる対策ほど、強く望む人は費用を負担する気持ちも強い、という結果は、地域で対策を話し合うときに、賛成と反対の数だけでなく、どれだけ強く望んでいるかも見る大切さを示しています。
地域で話し合うときにできること
好みと優先度を分けて聞く: 自治会などでアンケートをとるときは、「どの方法が好きか」と「どれを優先して実現したいか」を別々に聞くと、今回の研究のような意見のずれが見えます。
子育て世帯と高齢者の両方の声を聞く: 研究では、子どものいる世帯と高齢者で前向きさに差がありました。立場による違いがあることを前提に話し合います。
自分の地域の取り組みを確かめる: 生活道路の速度規制やハンプの設置は、警察と道路管理者が地域の住民と話し合いながら進めます。気になる道路があれば、市役所や警察署に相談します。
大阪・関西では
滋賀大学は、彦根市にキャンパスを置く国立大学です。今回の2本は、経済学部と、データサイエンス学部、データサイエンス・AIイノベーション研究推進センターの研究者による成果で、海外の都市の交通政策と、地元の琵琶湖の歴史的な記録という、まったく違う題材をデータで分析しています。滋賀大学のデータサイエンスの研究は、滋賀大学の因果探索論文がNeurIPS採択、観測データで原因と結果を探る でも紹介しています。
たとえば、大阪や京都の住宅地で、子どもの通学路の抜け道に車が入ってきて困っている地域なら、ハンプのように評価が分かれやすい対策を提案する前に、住民がどの方法をどれくらい強く望んでいるかを先に聞いておくと、合意を作りやすくなります。
通学路の安全、みんながどれくらい本気で望んどるかも聞いてみよな。