年賀はがきの販売が、11月2日に始まりました。無地は1枚85円。来年の今ごろも、同じ値段で買えるのでしょうか。
12月1日には改正郵便法が施行されます。手紙の料金を値上げしやすくすると報じられた改正なので、切手代がすぐ変わると思った人もいるかもしれません。でも、総務省が10月30日に公表した省令と審査基準を読むと、この日に動くのは窓口の値段ではなく、値段が決まるまでの道筋でした。
決まったこと、決まっていないこと
決まったこと
- 12月1日に改正法と省令を施行
- 省令の「110円」という上限額の規定を削除
- 上限額は日本郵便が申請し、総務大臣が認可
- 上限額を計算する審査基準も施行
決まっていないこと
- 値上げの申請をする時期
- 新しい上限額と手紙の料金
- はがきの料金
- 次回も物価問題に関する関係閣僚会議を通るか
11月2日の時点で、12月1日に料金を変えるという発表は、総務省からも日本郵便からも確認できません。
「20円」という数字を見かけた人はいるでしょう。日本郵政が5月に3か年の経営計画を説明したとき、社長が使った数字です。ただ、これは2028年度の利益を計算するための仮定で、手紙とはがきをそれぞれ20円上げた場合の試算でした。社長は同じ会見で「あらかじめ何かが決まっているわけではありません」と話し、時期についても「早ければ来年度中にも」「制度次第」という言い方にとどめました。
6月30日の会見でも、法律が成立した時点で「具体的にいくら引き上げるかといった検討段階にはなく」、効率化が先だと説明しました。郵政民営化法の改正でできる年650億円の交付金についても、値上げを抑える使い方があり得ると触れました。
110円が省令から消えると、何が変わるのか
今の手紙の料金は、上限に張り付いています。25g以下の手紙は総務省令で110円までと決まっていて、実際の料金も110円だからです。上げるには、まず総務省が省令を書き換えなければなりません。
前回は、この手順に時間がかかりました。審議会に諮問したのが2023年12月18日、実際に84円から110円になったのが2024年10月1日で、約9か月半。総務省の審議会も2025年7月の答申で、省令の基準は言葉だけで計算のしかたが決まっておらず、改正に「一定の時間を要して」いると指摘しました。
| 段階 |
前回(2024年) |
12月1日から |
| 言い出す側 |
総務省が省令案を作る |
日本郵便が上限額を申請 |
| 判断の物差し |
国民の負担能力、物価など |
適正な原価と適正な利潤 |
| 審議会 |
諮問した |
諮問すると法律に明記 |
| 意見募集 |
実施した |
実施すると総務省が説明 |
| 上限の決め方 |
省令の改正 |
総務大臣の認可 |
| 実際の料金 |
上限の中で届出 |
認可された上限の中で届出 |
つまり、「値上げが自由になる」という理解は当たりません。審議会も意見募集も残るからです。大きく変わるのは表の1行目と2行目でしょう。
とくに気になるのは2行目です。これまでの条文には「国民の負担能力、物価その他の事情」を勘案するとありましたが、新しい認可の基準に書かれたのは原価と利潤で、この言葉は条文から消えます。総務省は、全国一律の義務や生活インフラの役割といった「政策的・社会的な観点」も勘案して審査すると説明しました。ただ、この説明がどこまで値上げを抑える力になるかは、最初の申請を見るまで分かりません。
はがきには、もともと金額の上限がありません。条文にあるのは、手紙のいちばん低い料金より「低いものであること」という条件だけ。手紙が決まると、はがきの天井も決まる関係です。前回は手紙が84円から110円、はがきが63円から85円でした。
日本郵便が荷物に分類するゆうメールは、この上限の話の外にあります。こちらは2025年11月に、150gまでが180円から190円に上がりました。
審査の物差しは、郵便全体の3年間
上限をどう計算するかの基準も、同じ10月30日に公表されました。総務省の訓令にある郵便料金算定要領です。
手紙1通の原価を積み上げるわけではありません。郵便全体の収入と費用を見て、3年間の合計で収入が費用を超えないかを審査します。だから、手紙だけを見れば足りていても、郵便全体が足りなければ上限を上げる根拠になります。物流など郵便以外の事業は切り分け、人件費は賃金の統計の5年平均などで伸びを見込みます。
目を引くのは支社どうしの比較です。総務省が想定するのは、日本郵便の支社を独立した事業体とみなし、いちばん効率のよい支社を基準に、ほかの支社の非効率を計算する方法。郵便物の減り幅に応じた人件費の削減と合わせて、削れる額を「必要に応じて」考慮し、上限の額は「できるだけ低く抑える」と書かれました。
郵便物は2001年度の263億通から2025年度は118億通に。2026年度以降は日本郵政の見通し出典: 日本郵政「JP プラン2028」(PDF)11ページ(引用)
背景の数字は厳しいものです。郵便物は2001年度の263億通から、2025年度は118億通まで減りました。総務省の試算では、2024年の値上げで2025年度は一度黒字に戻るはずでした。ところが、2025年度の業務区分別収支を見ると、郵便業務等は339億円の赤字です。日本郵政は2026年度も、郵便事業で1,000億円を超える営業赤字を見込みます。年賀はがきの当初発行も5.6億枚で、前の年の7.5億枚の約74.3%です。
意見募集には12件が寄せられ、修正は1件もありませんでした。いちばん細かい匿名の意見は、申請書や費用の配分基準の公表、30日以上の意見募集と公聴会、予測が外れたときの値下げなどを求めました。総務省の答えは、審議会への諮問と意見募集によって原価の構造も明らかになる、というものでした。ただ、公聴会も自動の値下げも、基準には入りませんでした。
家計への影響は、切手より紙の手数料から
もっとも、手紙を月に何通も出す家庭は、そう多くないでしょう。家計に先に響くのは、郵送の費用を映した紙の手数料です。
前回の値上げに合わせるように、KDDIは紙の請求書の手数料を220円から253円に改め、ソフトバンクも2025年1月に同じ額へ上げました。どちらも理由に郵便料金を挙げました。関西の暮らしでは、電気とガスの紙にも値札が付いています。
| 請求元 |
紙のもの |
手数料(税込) |
かからなくなる方法 |
| 関西電力の対象メニュー |
請求書 |
1通110円 |
はぴeみる電で確認 |
| 関西電力の対象メニュー |
振込用紙 |
1通220円 |
口座振替かカード払い |
| KDDI(au) |
請求書 |
1通253円 |
紙の請求書の廃止 |
| ソフトバンク |
請求書 |
253円 |
請求書オプションの解除 |
| 大阪ガス |
払込書 |
1件330円 |
口座振替かカード払い |
大阪ガスの330円は手紙3通分で、2026年10月検針分から始まりました。理由に挙げたのは環境への配慮とペーパーレス化です。関西電力の手数料は、はぴeタイムやなっトクでんきなど対象のメニューに限られます。
役所の書類でも、紙を減らす道はあります。日本年金機構の「ねんきんネット」では、はがきのねんきん定期便の郵送停止を登録できます。確定申告はe-Taxなら郵送が要りません。書面を郵送して提出の日付を確認したい人は、切手を貼った返信用封筒を同封します。国税庁はこの扱いを「当分の間」の対応と位置づけました。
小さな店は、通数を数えるところから始めるのが早道です。請求書や案内を月30通出すなら、1通10円変わるごとに年3,600円。前回の手紙の上げ幅は26円でした。そのときは古い額の切手やはがきも、差額の切手を足せば使えました。大阪府は事業承継の手続きで、同封するレターパックに差額の切手が要ると注意を呼びかけました。役所に書類を郵送する店は、値上げの時期に同封する切手の額も確認が必要です。
次の値上げは、意見募集で見えてくる
順番で言えば、日本郵便の申請、総務省の審査、審議会への諮問と意見募集を経て認可となり、そのあとに料金の届出が続きます。前回は諮問から実施まで約9か月半ありました。次回の期間は分かりませんが、申請が公になれば、上限額と根拠の資料を読める場面が来るはずです。
そのとき手元に、紙で届く請求書の数と、月に出す通数のメモがあれば、いくらの話なのかをすぐ計算できます。
年賀状の枚数を数えるついでに、紙で届く請求書も数えとこか。