イトーキと松尾研究所は2026年10月2日、オフィスで働く人の行動データをAIで分析し、「データ駆動型生産性推定モデル」を作ったと発表しました。使ったデータ、分かったこと、データの扱いを、両社の発表から整理します。
行動が翌日のコンディションにどう響くかを探るモデル
このモデルは、日々の行動が、心身の健康や社内の人間関係といった「コンディション」にどう影響するかを探ります。コンディションが「アウトプット」(今回は従業員一人ひとりの能力発揮度)に与える影響も対象です。
手法は、時系列の因果探索「VAR-LiNGAM」です。一人ひとりの1日ごとのデータから「今日の行動→翌日の状態」という向きと時間差を推定し、多くの従業員で同じ向きに現れる関係だけを取り出したとしています。データと従来のモデルはイトーキが出し、分析と新しいモデルの構築は松尾研究所が担いました。
イトーキが示した「データ駆動型生産性推定モデル」の簡易図。行動からコンディション、アウトプットへ出典: 株式会社イトーキのプレスリリース(PR TIMES)(報道用の素材)
使ったのは本社の854名、2025年12月の1か月分
対象はイトーキの本社オフィスで働く854名で、期間は2025年12月1日から12月31日です。オフィス内の移動回数、会議の時間や数、メール・チャットの頻度など、70種類の行動データを取り出しました。内訳は位置情報21、予定情報4、オンラインコミュニケーション情報45です。
分析に使った70の指標の内訳。位置情報21、予定表4、メール・チャット45出典: 株式会社イトーキのプレスリリース(PR TIMES)(報道用の素材)
データの扱いは、次のように書かれています。
取得データは匿名化した上で個人の特定ができない状態で分析しています
出典: 株式会社イトーキ 公式ウェブサイトのニュースリリース(2026年10月2日)
メールやチャットの内容そのものは分析対象ではないとも書いています。同意の取り方は、今回の発表には書かれていません。
同じ共同研究の2026年7月3日の発表は、本社オフィスの945名が対象でした。オプトイン(本人の同意)の後に集めた個人情報を暗号化して保存し、分析では別の仮名IDに変えて扱うと説明しています。
会議は「長さ」より「数」 公式が挙げる結果
「設計・開発・企画」「営業・サービス」「管理」の3職種で比べた結果です。
| 行動 |
発表にある結果 |
| 会議の数が多い日 |
3職種とも翌日の心のコンディションが低下。総時間より数の影響が強く表れた |
| 中断されず60分以上作業できた日 |
全職種のうち88%の従業員で翌日の心のコンディションが向上 |
| メール・チャットの受信が多い日 |
「営業・サービス」職で、組織内の人間関係や体のコンディションなどが低下 |
| 自分からオンラインで発信する行動 |
組織内の人間関係のコンディション向上に影響 |
行動と当日・翌日のコンディションの関係を3職種で比べた図(松尾研究所の作成)出典: 株式会社松尾研究所の作成・株式会社イトーキのプレスリリース(PR TIMES)(報道用の素材)
一方、組織全体では「アウトプット」に一貫した因果が見られなかった行動もあります。オフィスにいる時間の長さ、休憩エリアを利用する回数、メール・チャットへの返信の速さ、デジタルにつながっている時間の長さです。図の注には、職種による差は統計的に有意ではなく傾向レベルだとあります。
暮らしと仕事への影響
すぐに働く人の毎日が変わる話ではありません。イトーキは、モデルは他企業にも応用可能としつつ、分析結果は自社の結果を示すものだとしています。データは1か月分で、ほかの会社で同じ結果になるかは発表からは分かりません。
今後は、モデルを異なる職種、拠点、企業へ広げ、精度と適用範囲を高めるとしています。オフィスづくりと運用のノウハウを組み合わせ、各社に合った空間づくりや運用の施策を提案する考えです。従業員のウェルビーイングに配慮した生産性向上をめざすとしています。
データから人の状態を捉えるAIは、パナソニックの介護AI「予兆ソリューション」はなぜ今? 現場と家族への影響でも取り上げています。
大阪・関西では、イトーキは高麗橋で創業した会社
イトーキの沿革には、1890年12月1日に「大阪市東区高麗橋に伊藤喜商店創業」とあります。いまの本社は東京都中央区日本橋にあり、今回の対象もこの本社オフィスです。大阪には、大阪市中央区淡路町1-6-11に大阪ショールームがあります。
関西の拠点での分析は、発表には書かれていません(2026年10月6日時点)。たとえば関西の事務所でも、1日の会議の数や、中断されずに作業できた時間を数えるところから始められます。
来週の予定表を開いて、会議がなんぼ入ってるか数えてみよか。